一 しかし上申書は證據書類ではないし賠償領収書も犯罪そのものに關する證據ではないからそれについて證據調をしなくても審理不盡とは言われない。 二 論旨は原審が前記の書類について證據調をしなかつたのは舊刑事訴訟法第三四二條に公判期日前に提出された證據書類は公判廷に於て取調ぶべしとあるのに違反する、と非難する。しかしここに「公判期日前」というのは第一回公判期日前の意味であること大審院時代からの判例であり、當裁判所にも判例がある。(昭和二三年(れ)第五〇八同年一一月四日言渡第一小法廷判決)
一 上申書及び賠償領収書の性質 二 舊刑訴法第三四二條「公判期日前」の意義
舊刑訴法342條1項,舊刑訴法342條
判旨
被告人の親族による上申書や被害者の領収証は、犯罪事実そのものを証明する証拠書類ではなく、これらを公判廷で証拠調べしなかったとしても審理不尽や手続違背には当たらない。
問題の所在(論点)
情状に関する書類(上申書、領収証)について公判廷での証拠調べを省略することが、審理不尽や訴訟手続の法令違反に当たるか。また、これらを公判廷に出さないことが憲法37条に違反するか。
規範
1. 犯罪事実そのものに関する証拠ではない上申書や領収証は、証拠書類として厳格な証拠調べを要するものではなく、これを取り調べないことは審理不尽に当たらない。 2. 「公判期日前」に提出された証拠書類を公判廷で取り調べるべきとする規定(旧刑訴法342条、現行法の趣旨にも通じる)の「公判期日前」とは、第一回公判期日前を指す。
重要事実
被告人Aの父および叔父が、被告人の更生と監督を誓う上申書を提出し、弁護人は被害者への賠償金領収証を提出した。これらの書類は記録に綴じ込まれていたが、原審はこれらを法廷で証拠として取り調べる手続を行わなかった。弁護人は、これらが公判期日前に提出された証拠書類であるにもかかわらず取り調べられなかったことは、旧刑事訴訟法342条違反および憲法37条の公平な裁判を受ける権利の侵害に当たると主張して上告した。
あてはめ
まず、父らの上申書は証拠書類ではなく、被害者の領収証も犯罪そのものに関する証拠ではない。したがって、これらについて証拠調べの手続を経なくても審理不尽とは言えない。次に、上申書は原審の第1回、第2回公判後に提出されており、領収証も第3回公判時に提出されたと推認される。これらは「第一回公判期日前」に提出されたものではないため、公判期日前の提出書類に関する取調義務(旧法342条)の対象外である。さらに、このような手続の運用が公平な裁判を妨げるものではないことは、既に判例(最大判昭23.5.5等)により確立している。
結論
原審が情状関係書類を公判廷で取り調べなかったことに違法はなく、量刑不当の主張も上告理由にならないため、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、情状に関する資料(上申書等)が記録に綴じ込まれていれば、必ずしも独立した証拠調べ手続を要さずとも量刑の参考に供することができる。ただし、現行法下では情状に関する事実も「厳格な証明」を要する場合がある点に注意が必要だが、本判決は、犯罪構成要件に直接関わらない証拠の取扱いに関する裁判所の裁量を認める先例として機能する。
事件番号: 昭和29(あ)511 / 裁判年月日: 昭和29年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に特定の事実の記載がない場合であっても、それが刑事訴訟規則44条等の法令により記載要件とされていない事項であれば、当該記載の欠如をもって直ちにその事実がなかったと断定することはできない。 第1 事案の概要:被告人側は、公判調書に特定の事実の記載がないことを理由として、その事実が実際には存在…