被告人等は本件物件を取得した相手方乘組員が商船の單なる乘組員であると信じていたもので、その乘組員が所論政令第一條にいわゆる連合國占領軍に附屬若しくは随伴する者に該當することを認識しなかつたことは記録に照し明かであると主張し從つて被告人等はその點に於て違法性の認識がなかつたに拘らず右政令違反として有罪と判定したのは違法であるというのである。よつて按ずるに原判決の舉示した證據のうち右の點に關するものは被告人A、同Bの原審公判廷における「判示の如き米國汽船の乘組員から煙草を買う事は悪いと云うことは判つていた」旨の各供述及び被告人Cの第一審第二回公判調書記載の「日本では自由貿易が許されていないから外國船の乘組員から勝手に品物を買う事が出來ないことは判つていた」旨の供述記載であるが右供述中の「買うことは悪い又出來ない」ということから直ちにその相手方の身分及び本件物件の性質に關する認識があり從つて本件政令違反の犯意があつたと認定することはできないのである。 然らば原判決が右の證據によつて政令違反の犯意を認定したのは失當であつて論旨はこの點において理由あり、原判決は破毀を免れない。
昭和二二年政令第一六五號違反の罪において犯意の認定を誤つた判決の違法
昭和22年勅令277號,昭和22年政令165號,舊刑訴法336條,舊刑訴法360條1項
判旨
犯罪の成立には、構成要件に該当する事実の認識が必要であり、単に一般的・抽象的に「悪いこと」であるとの認識があるだけでは、特定の罰則が適用される前提となる客観的事実を認識したとはいえない。
問題の所在(論点)
特定の行政刑罰(占領軍等からの物件取得)が成立するために必要な「故意」の内容として、単なる抽象的な違法性の意識があれば足りるのか、それとも罰則の適用前提となる具体的客観的事実(相手方の身分等)の認識が必要か。
規範
故意(刑法38条1項)が認められるためには、処罰の根拠となる特定の構成要件に該当する具体的客観的事実を認識していることが必要である。単に道徳的・抽象的に「悪いこと」であるとか、「法的に許されない」という包括的な違法性の意識があるだけでは、特定の犯罪の構成要件的事実を認識したものとは認められない。
事件番号: 昭和24(れ)1267 / 裁判年月日: 昭和24年12月24日 / 結論: 棄却
一 論旨は刑訴應急措置法第一二條第一項は憲法第三七條第二項に違反する規定であつて、同規定を適用し採證した原判決は違憲のものであるというにある。しかし刑訴應急措置法第一二條第一項が憲法に違反したものでないことは當裁判所の判例の示すところである(昭和二三年(れ)第八三三號同二四年五月一八日大法廷判決)従て同條に則り採證した…
重要事実
被告人らは、米国汽船の乗組員から煙草等の物件を取得した。適用される政令1条(占領軍等からの物件取得等の禁止)の違反が成立するためには、相手方が「連合国占領軍に附属若しくは随伴する者」であることを認識している必要があった。被告人らは「外国船の乗組員から勝手に品物を買うことは悪い・できないとわかっていた」と供述したが、相手方が占領軍関係者であるとの具体的認識は有していなかった。
あてはめ
被告人らが「煙草を買うことは悪い」「自由貿易が許されていないから勝手に買えない」と供述している点は、一般的な違法性の認識を示すに過ぎない。本件政令違反が成立するためには、取引相手が「占領軍に附属・随伴する者」であるという特定の構成要件的属性の認識が必要である。かかる具体的な身分や物件の性質に関する認識が欠如している以上、抽象的な悪性の認識から直ちに本件政令違反の犯意(故意)を認定することはできない。
結論
被告人らに本件政令違反の犯意があったと認定した原判決には、故意の解釈を誤った違法があるため、破棄・差戻しを免れない。
実務上の射程
故意における事実の認識が、構成要件に該当する客観的事実の具体的認識を指すことを示した基本判例。特に、行政刑罰や身分犯において、単なる「悪いことをしている」という意識(抽象的な違法性の意識)と、法が予定する「構成要件的事実の認識」を厳格に区別して論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1912 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】被告人が運搬・積載に関与した既遂物品と、実際に押収された未遂物品とを混同して事実認定を行い、当該押収物品を既遂罪の証拠として没収することは、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認である。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、C丸を用いた密輸出に関与したとして起訴された。起訴状には密輸出の既遂事実と…
事件番号: 昭和26(れ)1121 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が単独で犯罪を実行したとの認定に対し、共犯者の存在を示唆する主張がなされた場合であっても、それが単なる事実誤認の主張にとどまる限り、上告理由には当たらない。最高裁判所は、記録を精査した上で刑訴法411条を適用すべき著しい正義に反する事由がない限り、原判決を維持すべきである。 第1 事案の概要…
事件番号: 昭和24(れ)2224 / 裁判年月日: 昭和24年12月13日 / 結論: 破棄差戻
原判決は主文において押收にかかる漁船A丸(證第一號)の没收を言渡しその理由として該漁船は本件犯罪行爲に供した船舶であつて被告人が本件犯行當時船長としてこれを占有していたものと認めるから昭和二一年勅令第二二七號第九條第一項によつてこれを没收する旨を證示している。即ち、原判決は本件犯罪時における該漁船の占有關係を基準として…
事件番号: 昭和26(れ)1282 / 裁判年月日: 昭和26年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の上告趣旨が単なる量刑不当の主張に帰する場合、刑事訴訟法応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対して上告を提起したが、その上告趣旨の内容は、結局のところ原判決の量刑が重すぎるという量刑不当の主張に帰するものであった。その他の適法な上告…