一 略式命令の請求は簡易裁判所の管轄に屬する事件について公判前略式命令をもつて罰金又は科料の刑を科することを裁判所に求める公訴提起に附帶する請求であるから略式命令の請求が憲法に適合するものである以上、適法な略式命令の請求があればその公訴の提起も適法であること論を俟たない。 二 論旨は、酒造法は國民の生活必需品である酒の造石高を極度に制限し、又戰前に比し二二五〇倍を超える高率の税を課していて、國民の最低限度の生活を營む權利を侵害するものであるから、憲法第二五條第一項に違反する無効の法律であると主張するのであるが酒税法は酒類の造石高を制限している法律ではないのであるから、この點に關する論旨は見當違いである、又憲法第二五條の意義については、既に後記當裁判所大法廷の宣明するところであつて要するに同條第一項はすべての國民が健康で文化的な最低限度の生活を營み得るよう國政を運營すべきことを國家の義務として宣言したものであつて、即ち國家は國民一般に對し概活的にかゝる責務を負擔しこれを國政上の任務としたのであるけれども、個々の國民に對して具体的現實的にかゝる義務を負擔する趣旨ではないのである。(昭和二三年(れ)第二〇五號同年九月二九日大法廷判決)されば論旨が右憲法の規定から直接に個々の國民は國家によつて現實的な生活權を保障されているものとしその前提の下に酒税法所定の税率は著しく高率であるから免許を受けずして酒類を製造することは國民の生活權の行使であり、これを處罰する酒税法の規定は憲法第二五條に違反すると論ずるのは誤りであることは前示判例の趣旨に照し極めて明白であつて論旨は採用することを得ない。
一 略式命令の請求が適法である場合の公訴提起の正否 二 酒税法の合憲性と憲法第二五條の法意
舊刑訴524條,憲法37條1項,憲法25條,酒税法14條
判旨
憲法25条1項は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営めるよう国政を運営すべき国の責務を宣言したものであり、個々の国民に対して具体的・現実的な権利を付与したものではない。したがって、高率な酒税を課す酒税法が同条に違反して無効となることはない。
問題の所在(論点)
憲法25条1項の規定に基づき、個々の国民が国家に対して直接に具体的な現実的生活権を請求できるか。また、高率な酒税の賦課が同条に違反し、無免許製造の処罰を免れる根拠となり得るか。
規範
憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国家の責務として宣言したものである。国家は国民一般に対して概括的にかかる責務を負担し、これを国政上の任務とするが、個々の国民に対して具体的現実的にかかる義務を負担する趣旨ではない。
重要事実
被告人は、税務署長の免許を受けずに酒類を製造したとして酒税法違反で起訴された。これに対し被告人は、酒税法が戦前と比較して著しく高率な税(2250倍超)を課していることは、国民の最低限度の生活を営む権利を侵害し、憲法25条1項に違反する無効な法律であると主張して上告した。
あてはめ
憲法25条1項はプログラム規定にとどまり、直接に個々の国民に現実的な生活権を保障するものではない。そのため、同条から直接に、特定の税率が生活権を侵害して無効であると導くことはできない。酒税法が高率の税を課しているとしても、それは国の財政政策上の判断に属する事項であり、直ちに憲法25条の宣言する国家の責務に反するものとはいえない。したがって、免許を受けずに酒類を製造することが生活権の行使として正当化される余地はない。
結論
憲法25条1項は具体的権利を付与したものではなく、酒税法が同条に違反して無効であるとの主張は採用できない。上告棄却。
実務上の射程
生存権の法的性格について、プログラム規定説(抽象的権利説に近いニュアンス)を採った初期の重要判例である。司法試験においては、憲法25条の具体的権利性の有無が問題となる事案で、本判例を引用しつつ「国政上の指針」としての性格を論じる際に用いる。ただし、後の堀木訴訟等により立法府の裁量権が強調される構成へと発展している点に留意が必要である。
事件番号: 昭和25(あ)223 / 裁判年月日: 昭和25年7月11日 / 結論: 棄却
酒税法は違憲ではない。