原審の認定した判示被告人の所為が、昭和二四年法律四三号附則三項、同法律による改正前の酒税法一四条、六〇条一項に該当することは多言を要しないのであるから、仮りに所論の如くその犯行の動機が失業中最低限度の生活を維持するためであり、またその犯行の態様が如何に小規模であつたとしても、それだけでは原審が同条二項に従い所定刑の範囲内で被告人に対し懲役六月及び罰金二万円の刑を併科し、執行猶予の言渡をしなかつたことを目して前記憲法第二五条の条項に違反するものとはいい得ない。
最低限度の生活を維持するために為したという犯罪行為と憲法第二五条第一項
昭和24年法律43号酒税法等一部改正法律附則3項,酒税法(昭和24年法律43号による改正前のもの)14条,酒税法(昭和24年法律43号による改正前のもの)60条,酒税法(昭和24年法律43号による改正前のもの)60条1項,酒税法(昭和24年法律43号による改正前のもの)60条2項,憲法25条
判旨
憲法25条1項は、国が健康で文化的な最低限度の生活を営めるよう国政を運用すべき責務を宣言したものであり、個々の国民に対し具体的な権利を直接付与したものではない。したがって、生存維持を目的とした犯罪行為であっても、直ちに処罰が憲法違反になることはない。
問題の所在(論点)
生活苦ゆえに犯した罪を処罰すること、あるいは特定の量刑を科すことが、憲法25条1項の生存権保障の趣旨に反して違憲とならないか。すなわち、同項が個別の国民に対して具体的・直接的な権利を付与しているか。
規範
憲法25条1項の法意は、概括的に一般国民のため、健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運用すべき国家の責務を明らかにしたものに過ぎない。したがって、具体的・現実的に個々の国民が国家に対してかかる権利(生存権)を直接有することを規定したものではないと解すべきである。
重要事実
被告人は失業中であり、最低限度の生活を維持することを動機として、小規模な規模で酒税法違反(無免許製造等)にあたる行為に及んだ。原審は、被告人に対し酒税法に基づき懲役6月及び罰金2万円を併科し、執行猶予を付さなかった。これに対し、被告人側は生存権の侵害等を理由に上告した。
あてはめ
被告人の行為が改正前の酒税法所定の罰則に該当することは明らかである。被告人が失業中で生活維持のために犯行に及んだという動機や、犯行の態様が小規模であったという事実があったとしても、それらは情状の問題に過ぎない。憲法25条1項は国家の抽象的責務を定めたものであって具体的な権利を個々人に与えたものではない以上、裁判所が法律の定めに従って量刑を行い、執行猶予を付さなかったとしても、同条に違反する不当な判決とはいえない。
結論
被告人の行為を酒税法に基づき処罰し、懲役および罰金を併科した原審の判断は合憲である。上告棄却。
実務上の射程
生存権の法的性格について、プログラム規定説的立場(具体的権利性の否定)を明示した初期の重要判例である。答案上は、生存権に基づく具体的給付請求権の否定や、生存権を根拠とした刑事処罰の違憲主張を排斥する文脈で、規範の冒頭に置くべき法理として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3993 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条は、最低限度の生活を営み得ないことを理由に犯罪行為を正当化する根拠とはならず、生存権の保障をもって直ちに違法性が阻却されることはない。 第1 事案の概要:被告人は何らかの犯罪行為(判決文からは罪名等の詳細は不明)に及んだが、その背景には最低限度の生活を営むことができないという経済的困窮が…