被告人が錯誤によつて眞意でない供述をした場合後にその供述を訂正したときには、その錯誤が明らかである限り、後の供述を眞意によるものとして取扱わねばならぬことは言うまでもないことである。しかし本件においては第一審公判調書の記載によると被告人は裁判長の訊問に答えて、家を出るとき所論の小刀一個を持つて出たことを認めた上種々問答を交はした後、右の供述を變更して「小刀は後日拾つたものである」と全く新な供述をしたものであることが窺われ錯誤による供述を訂正したことが明らかであるとは言われない。このように前後相反する供述がなされた場合いずれの供述が眞實に合するものとして採用すべきであるかは事實審たる原裁判所が諸般の状況を参酌して合理的に決することのできる自由裁量の問題であつて。所論のように必ず後になされた供述を採用しなければならないという採證上の法則はない。
被告人が前後相反する供述をした場合と採證の自由
舊刑訴法337條
判旨
被告人が公判において前後相反する供述をした場合、いずれを採用すべきかは事実審裁判所の自由裁量に委ねられ、必ずしも後の供述を優先すべきという採証上の法則は存在しない。ただし、錯誤による供述の訂正であることが明白な場合には、後の供述を真意として取り扱う必要がある。
問題の所在(論点)
被告人が公判廷において、先に認めた事実を後に否定するような矛盾した供述を行った場合、裁判所は後の供述を優先して採用しなければならないという採証上の法則があるか。また、自由心証主義の限界として、錯誤による訂正がどの程度認められるべきか。
規範
証拠の証明力の評価は、裁判所の自由な判断に委ねられる(自由心証主義)。被告人が供述を訂正・変更した場合、その訂正が錯誤に基づくものであることが明白であれば後の供述を真意として取り扱うべきであるが、そうでない限り、前後いずれの供述を真実として採用するかは、裁判所が諸般の状況を参酌して合理的に決定できる自由裁量の問題である。
重要事実
被告人は第一審の裁判長による訊問に対し、当初は「家を出る際に小刀1個を持って出た」旨を認める供述をした。しかし、その後のやり取りの中で供述を翻し、「小刀は後日拾ったものである」という全く新たな内容の供述を行った。弁護人は、後の供述を採用すべきであるとして、原判決の採証法則違反を主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人の供述変更は、当初の自白的な内容から一転して「拾得した」という新たな事実を主張するものである。第一審公判調書の記載によれば、この変更が「錯誤によって真意でない供述をしたことの訂正」であることが明白であるとは言い難い。このように供述が変遷し前後相反する場合、いずれの供述が真実であるかを判断することは事実認定の問題であり、裁判所が合理的に決することができる。
結論
被告人が後の供述を真意として取り扱うべき「錯誤による訂正」が明白でない以上、先行する供述を証拠として採用することは適法であり、後の供述を必ず採用しなければならないという法則はないため、上告は棄却される。
実務上の射程
自由心証主義(刑訴法318条)の原則を確認した判例である。答案上は、公判供述の変遷がある事案において、先行する供述を採用することの合理性を基礎づける際に活用できる。特に「錯誤が明白な場合」という限定を付している点は、裁判所の裁量の限界を示すものとして注意を要する。
事件番号: 昭和23(れ)157 / 裁判年月日: 昭和23年5月6日 / 結論: 棄却
證據の取捨判斷は事實審の裁判官が法令其の他經驗則に違反せざる限り良心に從い、諸般の事情に應じ獨立自由に決定するところに一任さるべきものである。そして所論のごとく、被告人の供述が前後全く相反する場合においても、利害關係のない直接見聞體驗者の證言に必ず從はねばならぬというような經驗法則は存在しない。それ故、本件のように原審…