判旨
直接証拠がない場合であっても、間接証拠の総合評価によって事実を認定することは許され、実験則や条理に反しない限り、証拠の取捨選択は裁判所の自由な裁量に属する。
問題の所在(論点)
直接証拠が存在せず、かつ一部の証拠(手記等)を排除した状況において、間接証拠や証人供述の取捨選択により犯罪事実を認定することが自由心証主義の範疇として許容されるか。
規範
事実の認定は、証拠の証明力を裁判所の自由な判断に委ねる自由心証主義に基づく。直接証拠が存在しない場合であっても、間接証拠の積み重ねにより、条理および実験則(論理則・経験則)に照らして合理的な関連性が認められる限り、犯罪事実を認定することが可能である。また、相反する供述が存在する場合の取捨選択も、経験則に反しない限り事実審裁判所の合理的な裁量の範囲内にある。
重要事実
被告人が犯行を一貫して否認している事案において、第一審・控訴審は、被告人が作成した手記(証拠第5号、第6号)を証拠として採用せずに有罪を言い渡した。弁護人は、本件には直接証拠が欠けており、かつ強制や拷問により作成された手記を排除しながら有罪とした原判決には、証拠に基づかない事実認定(虚無の証拠による認定)の違法があると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、記録を精査した結果、原判決が挙げた各証拠と認定事実を対照しても、その認定過程に条理や実験則への背反は認められないとした。被告人の手記については、原審がこれを証拠に採用していない以上、たとえ作成過程に強制等の事情があったとしても判決の妥当性に影響しない。また、証人Aが公判で検事調書と相反する供述をした点についても、実験則に反しない限りどちらの供述を信ずるかは裁判所の専権事項であり、検事調書を選択した判断に不合理はないと評価した。
結論
原判決の事実認定に違法はなく、直接証拠がないことをもって直ちに虚無の証拠による認定とはいえない。したがって、本件上告は理由がないものとして棄却される。
実務上の射程
刑事裁判における自由心証主義(刑訴法318条)の原則を確認する判例である。答案上は、直接証拠がない事案での事実認定のプロセスを説明する際、「実験則・論理則に反しない限り、裁判所の広範な裁量が認められる」とする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5163 / 裁判年月日: 昭和29年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意性に疑いのある自白は証拠能力を欠くが、被告人及び弁護人が同意し、かつ記録上任意にされたものでないと疑うべき理由がない場合には、証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が司法警察員に対して行った各供述(自白調書及び上申書)について、弁護人は取調官による暴行、強制、誘導に基づいたものであ…
事件番号: 昭和58(あ)491 / 裁判年月日: 昭和59年6月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白に任意性を疑わせる証跡が認められない場合、当該自白を証拠として犯罪事実を認定した原判決の判断は正当であり、刑訴法411条を適用すべき事由は認められない。 第1 事案の概要:被告人は強姦、殺人、死体損壊・遺棄の罪で起訴された。弁護側は事実誤認等を理由に上告したが、特に被告人の自白の任意性…