一 論旨は原判決舉示の鑑定書は鑑定の結果に對する法醫學的究明が缺けているから證據能力がないと主張するのであるが舊刑事訴訟法第二二一條第一項は鑑定の經過及び結果は鑑定人をして鑑定書又は口頭を以て報告せしむべしと規定しているだけであつて鑑定の結果に對し一々科學的究明をなすことは必ずしも必要とするものではない。 二 第一審判決に對し被告人は上訴を抛棄したにかかわらず檢察官において控訴申立をしたのであるから右申立後の第二審における未決勾留日數は舊刑事訴訟法第五五六條により當然本刑に算入されるものであることは所論の通りである、しかし右未決勾留日數は同條により判決確定後其の執行に當り當然通算されるものであつて刑法第二一條により判決主文において通算すべきものではない。 三 被告人の「A(被害者)の肩に手をかけたのは、真実埃を払つてやろうという親切心からで、他意があつた訳ではない。且つ同女の口を掩い咽頭部を手で扼す等の暴行をしたのも、同女が自分の行動を誤解して叫ぶので、それが隣家に聞えては困ると思い、その誤解を解くために落ち付いて貰おうと思つてやつたので、強姦の意図からではない。」との供述と、他の証拠と綜合して判断すれば、被告人に強姦の意思があつたことを推断し得る場合には、被告人の右供述を証拠として強姦の事実を認定しても、法則違背とはならない。
一 鑑定の結果に對する科學的究明の要否 二 檢事による控訴申立後未決勾留日數の通算を判決主文に掲げることの要否 三 犯意の否認するような弁解を含む供述と他の証拠とを綜合して犯罪事実を認定することの可否
舊刑訴法221條1項,舊刑訴法337條,旧刑訴法337条,舊刑訴556條1項1號
判旨
強姦の犯意を否定する被告人の弁解部分を、客観的事実と対照して犯意を推断する証拠として採用することは許され、また鑑定書に法医学的な詳細説明が欠けていても直ちに証拠能力が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
1. 被告人が犯意を否定する弁解を伴う供述を行った場合、その供述を犯意認定の証拠として採用することができるか。 2. 鑑定書に法医学的な詳細説明が欠けている場合、証拠能力が認められるか。
規範
1. 被告人の供述中に犯意を否定する弁解が含まれている場合であっても、当該供述から認められる暴行の事実等を他の客観的証拠と対照し、総合的に判断することで、犯意を肯定する推断の資料とすることができる。 2. 鑑定書において、鑑定の経過および結果の報告は必要であるが、結果に対する個々の科学的説明の欠如が直ちに証拠能力を否定する事由にはならない。
重要事実
被告人は、被害者Aの肩に手をかけ、さらに口を覆い咽喉部を扼するなどの暴行を加えた。被告人は「埃を払う親切心からであり、暴行は叫び声を抑えて誤解を解くためであって、強姦の意図はなかった」と主張した。原審は、この被告人の供述のうち暴行の事実等に関する部分を証拠として挙げ、他の証拠(Bの供述、検証調書、死因を絞頸とする鑑定書)と対照して強姦の犯意および強姦殺人罪の成立を認めた。被告人側は、有利な弁解を証拠に挙げながら犯意を認めた点や、鑑定書に科学的説明が欠ける点の違法を主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人は自ら被害者の口を覆い咽喉部を扼した事実を認めており、この事実は客観的な鑑定結果や証人の供述と整合する。犯意の有無は供述の主観的な言及のみで決まるものではなく、供述内容の一部(暴行事実)と他証拠を対照することで、客観的に強姦の意思を推断することが可能である。したがって、被告人に有利な弁解部分を含む供述を証拠として判示事実(犯意)を認定しても採証法則に違背しない。 2. 旧刑訴法221条1項(現刑訴法321条4項参照)は鑑定の経過と結果の報告を求めているに留まる。本件鑑定書には「解剖検査記録」により死因が絞頸である旨の判断理由が示されており、適法な手続による以上、科学的説明の精緻さは証拠価値(証明力)の問題であって、証拠能力を左右するものではない。
結論
被告人の供述を犯意認定の資料とすること、および詳細説明を欠く鑑定書に証拠能力を認めることはいずれも適法である。上告棄却。
実務上の射程
犯意の認定において、被告人の「否認の弁解」が含まれる供述調書から客観的態様に資する部分を抽出・評価し、他証拠と併せて犯意を推認する実務上の手法を裏付ける。また、鑑定書の証拠能力の要件について、経過と結果の記載があれば足り、説明の不十分さは証明力の問題に帰着することを示す際に有用である。
事件番号: 昭和28(あ)1367 / 裁判年月日: 昭和28年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみに基づいて事実を認定することは憲法及び刑事訴訟法に反するが、第一審判決が自白以外の証拠も併せて事実を認定している場合には、自白のみによる認定とはいえず適法である。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判において有罪判決を受けた際、その事実認定が被告人の自白のみによってなされたとして、憲…