判旨
社会制度の欠陥や生存権等の保障の不備を理由に、死刑判決が憲法に違反するという主張は、具体的根拠を欠く場合は上告理由にならない。また、個別の犯行が社会制度に起因すると認められない限り、被告人にその責任を負わせることは合憲である。
問題の所在(論点)
社会制度の欠陥や国家の公的扶助の不足を理由として、死刑を科す判決が憲法違反(残酷な刑罰等)に該当するか、および刑訴法411条の職権破棄事由にあたるか。
規範
社会制度の不備や国家の保護欠如といった抽象的な社会的事情は、それが具体的犯行に直接起因したと認められない限り、適法に科された死刑判決を憲法違反とする根拠にはならない。刑事責任は、個人の犯行態様や犯意等の事実に基づいて判断されるべきものである。
重要事実
被告人は強姦致傷殺人の罪に問われ、一審および二審で死刑判決を受けた。弁護人は、本件犯行が社会制度の欠陥や、国家による勤労の権利・社会保障制度の不備に基因するものであるから、被告人のみに責任を負わせて死刑を科すことは憲法違反であると主張して上告した。また、被告人本人は殺意を否認し、飲酒による酩酊や量刑不当を主張した。
あてはめ
記録上、被告人の強姦致傷殺人の所為が社会制度の欠陥に基因すると認めるに足りる事跡は発見できない。弁護人の主張は独自の私見に過ぎず、憲法違反の前提を欠く。また、第一審判決が認定した犯行の時間、場所、殺意の存在、酩酊の程度などの事実認定および証拠の取捨選択に不当な点はなく、量刑が惨酷で著しく正義に反するとも認められない。
結論
本件死刑判決に憲法違反や著しい量刑不当は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和50(あ)2212 / 裁判年月日: 昭和53年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、被告人及び弁護人による上告趣意が憲法違反を主張するものであっても、その実質が単なる法令違反や事実誤認にすぎない場合には、刑訴法405条の上告理由には当たらないと判示したものである。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が、憲法31条違反、法令違反、事実誤認、量刑不当を理由として上告を申し…
生存権や社会権の不備を刑事責任の免責・軽減事由として構成する主張に対し、犯行との具体的因果関係を要求することで否定した事例。答案上は、死刑制度の合憲性や量刑判断における情状論の限界を示す際に参照しうる。
事件番号: 昭和28(あ)1367 / 裁判年月日: 昭和28年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみに基づいて事実を認定することは憲法及び刑事訴訟法に反するが、第一審判決が自白以外の証拠も併せて事実を認定している場合には、自白のみによる認定とはいえず適法である。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判において有罪判決を受けた際、その事実認定が被告人の自白のみによってなされたとして、憲…
事件番号: 昭和34(あ)670 / 裁判年月日: 昭和35年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条は国に対して国民一般への概括的な任務を課したものであり、個々の国民に対し具体的・現実的な義務を負わせるものではないため、国の救済責務の不履行を理由に刑罰を減免すべきとの主張は認められない。 第1 事案の概要:被告人は殺人罪(刑法199条)に問われ、死刑を選択した原判決に対し上告した。弁護…