判旨
憲法25条は国に対して国民一般への概括的な任務を課したものであり、個々の国民に対し具体的・現実的な義務を負わせるものではないため、国の救済責務の不履行を理由に刑罰を減免すべきとの主張は認められない。
問題の所在(論点)
国が憲法25条に基づく国民の生存育成に関する具体的責務を果たしていないことを理由として、刑事裁判において被告人に適用される刑罰(特に死刑)を減免すべきとの主張が認められるか。
規範
憲法25条は、積極主義の政治として、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国家の任務として宣言したものである。国家は国民一般に対し概括的にかかる責務を負担し、これを国政上の任務としたものではあるが、個々の国民に対し具体的、現実的にかかる義務を有するものではない。
重要事実
被告人は殺人罪(刑法199条)に問われ、死刑を選択した原判決に対し上告した。弁護人は、国が憲法13条および25条に基づき個人の生存育成を保障する責務を果たしていない場合、裁判所は死刑を選択せず、または刑を減軽すべき義務があると主張した。具体的には、本件被告人に対し国がその責務を果たしていない以上、死刑の適用は憲法違反であると論じた。
あてはめ
憲法25条は、社会的立法の制定・実施等を通じて生活水準の確保向上を国の任務としたに過ぎない。したがって、国が特定の個人に対して具体的な救済責務を負うものではない以上、被告人の生存育成について国の責務不履行があるという主張は法的な前提を欠く。また、憲法13条に基づく国の責務不履行についても、原審においてその事実関係が主張されておらず、採用の余地はない。
結論
被告人個人に対して国が具体的・現実的な義務を有することを前提とする憲法25条違反等の主張は理由がなく、死刑の選択が違憲であるとはいえない。
実務上の射程
生存権(憲法25条)の法的性格について「プログラム規定説」に近い立場を維持し、具体的権利性を否定した文脈で引用される。刑事裁判の量刑判断において、国の福祉政策の不備を理由に刑の減免を憲法上強制することはできないことを示したものとして、被告人側の情状弁護を排斥する際の論理として機能する。
事件番号: 昭和28(あ)4612 / 裁判年月日: 昭和30年8月2日 / 結論: 棄却
一 控訴審判決が、心神耗弱による刑の減軽をなした第一審判決を、量刑不当として破棄した上同様の減軽をなして自判した場合に、控訴趣意においては単に量刑不当の主張をなしたに止まるにかかわらず、上告審においてはじめて心神耗弱の認定の誤を論じて判例違反を主張することは許されない。 二 憲法第二五条第二項の法意は、同条第一項の、国…
事件番号: 昭和62(あ)294 / 裁判年月日: 平成元年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意における憲法違反、判例違反、事実誤認の主張が、刑訴法405条所定の上告理由に当たらない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人側は、原判決に憲法37条2項、38条、31条の違反があること、及び判例違反、事実誤認があることを理由として上告を申し立てた。しかし、提示された判…