一 控訴審判決が、心神耗弱による刑の減軽をなした第一審判決を、量刑不当として破棄した上同様の減軽をなして自判した場合に、控訴趣意においては単に量刑不当の主張をなしたに止まるにかかわらず、上告審においてはじめて心神耗弱の認定の誤を論じて判例違反を主張することは許されない。 二 憲法第二五条第二項の法意は、同条第一項の、国家は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政上の任務とすべきであるという趣旨と対応し、国家はこれらの目的のために積極的に社会的施設の拡充増強に努力すべきことを国家の任務の一として宣言したに止まり、国民各個人に対し、具体的現実的にかかる権利を有することを認めた趣旨ではない。
一 上告理由として主張の許されない一事例 二 憲法第二五条第二項の法意
刑訴法405条,刑訴法400条但書,憲法25条2項
判旨
憲法25条は、国家が国民一般に対して健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負い、そのための社会的施設の拡充に努めるべき国政上の任務を宣言したものであり、国民各個人に対し具体的・現実的な権利を付与したものではない。
問題の所在(論点)
憲法25条に基づき、国民が国家に対して具体的・現実的な生活保障の権利を有すると解されるか。また、原審において主張可能な事項を主張せず、上告審で初めて主張することが許されるか(上告理由の適格性)。
規範
憲法25条1項は、国家が国民一般に対し、概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負担し、これを国政上の任務とすべきことを宣言したにすぎない。また、同条2項は、これらの目的のために国家が積極的に社会的施設の拡充増強に努力すべき任務を宣言したものであり、国民個人に対して具体的・現実的な権利を認めた趣旨ではない(プログラム規定説)。
重要事実
被告人が特定の犯罪事実により起訴され、第一審で有罪判決を受けた事案。原審(控訴審)は量刑不当を理由に破棄自判したが、被告人側は上告審において、被告人に科刑すること自体が憲法25条に違反し違憲であると主張した。また、原審で主張していなかった心神喪失を前提とした判例違反も併せて主張した。
あてはめ
まず、原審で主張可能であった心神喪失等の事由を上告審で初めて主張することは、原審が破棄自判をした場合であっても許されない。次に、被告人への科刑が憲法25条に反するという主張について、同条は国家の政治的義務を規定したものであり、個々の国民が「具体的な権利」として国に対して直接的な請求や不服を申し立てる根拠となるものではない。したがって、科刑の合憲性を争う根拠として憲法25条を具体的権利の侵害として援用することはできない。
結論
憲法25条は具体的・現実的な権利を国民に与えるものではないため、これに反することを理由とする上告は理由がない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
生存権の法的性格について、朝日訴訟や堀木訴訟に先んじてプログラム規定説を採用した初期の重要判例である。答案上は、憲法25条の具体的権利性を否定し、立法府の広い裁量を認める際の論拠として使用する。また、刑訴法上のルールとして、控訴審で主張できた事項を上告審で初めて主張することはできないという点(上告理由の制限)も併せて確認すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)2301 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、事実誤認、量刑不当、単なる訴訟法違反を理由とする上告について、これらが刑事訴訟法405条所定の上告理由に当たらないことを明確にしたものである。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対して上告を申し立てたが、その具体的な主張内容は事実誤認、量刑不当、および単なる訴訟法違反を主張するものであっ…
事件番号: 昭和26(あ)2511 / 裁判年月日: 昭和28年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条は、国家が国民に対し健康で文化的な最低限度の生活を営めるよう国政を運営すべき政治的な責務を規定したものであり、個々の国民に具体的・現実的な権利を付与したものではない。 第1 事案の概要:本件は、食糧管理法違反等の罪に問われた被告人が、同法による統制が憲法25条に違反するとして上告した事案…