一 事實審理にあたる裁判所が、事案を審理する過程に於て又その他犯行に關係ある諸般の事情から、被告人の犯行當時に於ける精神状態について、疑のない程度にその認識をえた場合には、わざわざ専門家に鑑定させて、その結果を判斷の資料に供するまでもないことは、一般に人の精神状態は常に専門家の鑑定をまたなければ判らないとされていないことと同様である。 二 精神状態の認定は結局事實認定の問題であるから、精神状態に關する鑑定申請の採否は事實審の自由になしうるところである。從つて辯護人がその申請をして、それについて事實審が、その判斷に基いてその必要を認めないからということで、右申請を却下しても、辯護權を不法に制限したということはできないと云はねばならぬ。
一 裁判所が被告人の犯行當時の精神状態につき疑を持たぬ場合の鑑定の要否 二 精神状態に關する鑑定申請の却下と辯護權に對する不法制限
舊刑訴法337條,舊刑訴法219條,舊刑訴法344條1項,刑法39條,410條11號
判旨
被告人の精神状態の認定は事実認定の問題であり、裁判所が審理過程や諸般の事情から疑いのない程度に認識を得た場合には、専門家の鑑定を要せず自ら判断できる。精神鑑定の申請を却下することは事実審の裁量に属し、特段の事情がない限り弁護権の不当な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
被告人の精神状態を判断するにあたり、常に専門家の鑑定を経る必要があるか。また、被告人の精神状態に疑いがない場合に精神鑑定の申請を却下することは、弁護権の不当な制限(刑事訴訟法上の違法)にあたるか。
規範
被告人の犯行時の精神状態の認定は、究極的には事実認定の問題である。したがって、精神状態に関する鑑定申請の採否は事実審裁判所の自由裁量に属する。裁判所が、審理の過程や犯行に関係のある諸般の事情から、被告人の精神状態について疑いのない程度の認識を得た場合には、専門家の鑑定を経ることなく、裁判官の判断によって精神状態を認定することが可能である。
重要事実
被告人の弁護人は、心神耗弱を理由として精神鑑定を申請したが、原審裁判所はこの申請を却下した。弁護人は、精神鑑定を必要とする理由について具体的な資料を何ら提供していなかった。また、記録上も被告人の精神状態に疑いを差し挟むべき顕著な事情は認められなかった。弁護人は、この申請却下が弁護権の不法な制限にあたり、量刑不当を招いたとして上告した。
あてはめ
本件において、記録上、被告人の精神状態に疑いを持つべき顕著な事情は一切認められない。また、弁護人による鑑定申請に際しても、鑑定を必要とする根拠となる資料が提供されていない。このような状況下では、裁判所が鑑定を待つまでもなく被告人の精神状態を認識できたといえる。したがって、裁判所がその職権により鑑定の必要性がないと判断して申請を却下したことは、裁量の範囲内であり相当である。
結論
精神鑑定の申請を却下した原審の判断は適法であり、弁護権を不法に制限したものとはいえない。
実務上の射程
責任能力の判断において、裁判所が鑑定を要せず自ら判断できる限界を示した事例。実務上は、精神障害の存在が疑われる具体的資料がある場合には鑑定を命じるべきとされるが、本判例は「疑いのない場合」の裁量的却下を肯定する文脈で引用される。
事件番号: 昭和25(れ)1508 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認および量刑不当の主張は、いずれも刑事訴訟法上、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対して上告を提起した事案である。弁護人は、第一点において原判決には事実誤認がある旨を主張し、第二点において原判決の量刑が不当である旨を主張した。 第2 問題の所在(論点):刑事訴…