一 刑法第二四〇條前段所定の強盜傷人の既遂罪は、強盜の身分を有する者が強盜の實行中又はその機會に傷害の結果を發生せしめる以て直ちに成立するものである、そしてその強盜たる身分は強盜に着手するか又はいわゆる準強盜と認むべき行爲を爲すによりこれを取得するもので、財物を得ると否とは、「窃盜財物を得てその取還を拒ぐ」場合の外その身分を取得するのに毫も關係のないものであるから、原判決が所論各被告人の判示所爲に對し同法條前段のみを適用して同法第二四三條第二四〇條前段を適用しなかつたのは正當である。 二 少年に對する保護處分を爲すか否かは第一審又は控訴審の裁判所の自由裁量に屬する事である。 三 舊刑訴法第七二條に「官吏書類を作るには挿入削除を爲したるときはこれに認印しその字數を記載すべき云々」とあるは訓示的規定であつてこれに反する書類又は記載等を當然無効とする趣旨ではない。從つて現實に爲された挿入削除の字數如何は裁判官が各場合において適正に決すべき事實問題である。
一 強盜傷人罪の既遂の時期と財物取得の有無 二 少年に對する保護處分と事實審の自由裁量權 三 舊刑訴法第七二條の規定の性質と同條違反を理由とする上告の適否
刑法240條,刑法243條,少年法71條,舊刑訴法72條,舊刑訴法409條
判旨
強盗致死傷罪(刑法240条)は、強盗がその実行中または機会に人を負傷させた場合に成立し、財物奪取の成否(既遂・未遂)を問わず、負傷の結果が発生すれば既遂罪として成立する。
問題の所在(論点)
強盗の着手後、財物奪取が未遂に終わり、かつ傷害の結果が発生した場合において、刑法240条の既遂罪が成立するか、あるいは強盗未遂と傷害の結合により未遂罪(刑法243条の適用)にとどまるか。
規範
刑法240条前段(強盗傷人罪)は、強盗の身分を有する者が強盗の実行中またはその機会に傷害の結果を発生させることで直ちに成立する。強盗の身分は、強盗に着手するか、準備強盗と認めるべき行為をすることで取得されるため、事後強盗(同法238条)の場合を除き、財物取得の有無は強盗傷人罪の成否に影響しない。したがって、強盗致死傷罪には財物奪取の有無による未遂(同法243条の適用)は存在せず、負傷の結果が生じれば既遂となる。
重要事実
被告人らは共謀の上、通行人に暴行・脅迫を加えて金品を奪取しようと企て、暴行を加えたが、金品を強取するに至らなかった。しかし、その暴行により被害者に負傷を負わせた。第一審および控訴審は、強盗が未遂であっても傷害の結果が発生しているとして、刑法240条前段を適用して強盗傷人罪の既遂として処断した。これに対し弁護人は、財物奪取が未遂である以上、強盗傷人罪についても未遂罪(刑法243条)を適用すべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件被告人らは金品奪取の目的で暴行を開始しており、既に強盗の実行に着手して「強盗の身分」を取得している。その実行の際、被害者に傷害の結果を発生させた以上、刑法240条前段の構成要件を完全に充足する。同条は「強盗が人を負傷させた」こと自体を重く処罰する趣旨の規定であり、財物奪取の成否は罪責の成否に影響を与えない。したがって、強盗致死傷罪においては負傷という結果が発生した時点で既遂に達すると解される。
結論
強盗が財物を得なかった場合でも、人を負傷させた以上は強盗傷人罪の既遂が成立する。原判決が243条(未遂規定)を適用しなかったのは正当である。
実務上の射程
強盗致死傷罪の既遂・未遂の区別は「死傷の結果」の発生如何によって決まるという、現在の通説的実務(結果標準説)を確立した重要判例である。答案上は、財物奪取が未遂であっても死傷結果があれば直ちに240条の既遂として処理する根拠として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)1272 / 裁判年月日: 昭和24年2月22日 / 結論: 棄却
刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は、強盜犯人が強盜の機會において人を傷害した場合を犯情の重いものとして通常の傷害罪と區別して處斷することとした結果的加重犯であるから、いやしくも傷害の結果が發生した以上、強盜行爲が既遂であると未遂であるとを問わず、同條の既遂罪が成立するのである。されば所論のように窃盜行爲が未遂であるため、…
事件番号: 昭和24(れ)1091 / 裁判年月日: 昭和24年7月16日 / 結論: 棄却
上告趣意一の強盜行爲(原判決判示第一の事實)は未遂であることは原判決もそのとおりに認定しているのであるが、その現場において傷人した以上は、たとい強盜行爲は未遂であつても、刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は成立するのである。