判旨
強盗犯人が人を負傷させた場合、強盗行為が既遂か未遂かを問わず、刑法240条前段の強盗致傷罪の既遂が成立し、未遂減軽の適用はない。
問題の所在(論点)
強盗犯人が強盗の目的を遂げなかった(強盗未遂)が、その過程で人を傷つけた場合、刑法240条前段の既遂が成立するか、あるいは強盗未遂の結果として未遂減軽(刑法43条)の適用があるか。
規範
刑法240条が「強盗が人を負傷させたとき」と規定している趣旨は、強盗という機会に付随して発生する人身被害の重さを重視し、その結果について厳罰を科す点にある。したがって、同条の既遂・未遂の区別は、強盗行為の成否ではなく、負傷という結果が発生したか否かによって決せられるべきである。強盗行為が未遂であっても、結果として人を傷つけた以上、強盗致傷罪の既遂として成立し、刑法43条本文による未遂減軽の余地はない。
重要事実
被告人が強盗を企てて実行に着手したが、財物の奪取には至らなかった(強盗未遂)。しかし、その強盗の機会において、被告人は被害者に負傷を負わせるに至った。弁護人は、強盗行為が未遂である以上、強盗致傷罪についても未遂減軽を適用すべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は強盗の実行に着手しており、その機会に人を負傷させている。強盗致傷罪は、人身への加害結果が発生した時点で既遂となる結果的加重犯的側面を有する。財物奪取という強盗行為自体が未遂に終わったとしても、法が保護しようとしている重要な法益である「身体」に対する侵害(負傷)が現実化している以上、同罪の構成要件は完全に充足されている。したがって、強盗の既遂・未遂という事情は、致傷の結果が発生している本件においては、既遂の成立を左右しない。
結論
強盗が人を傷つけた以上、強盗行為の既遂・未遂を問わず、刑法240条前段の強盗致傷罪が成立する。未遂減軽の適用はない。
実務上の射程
強盗致死傷罪(240条)における既遂・未遂の基準が「死傷の結果の発生」にあることを示した重要判例である。答案上は、財物奪取に失敗した事例で、負傷結果が出ている場合に、240条を検討する過程で「強盗の成否を問わず致傷の結果があれば既遂」と短く引用して未遂減軽を否定する形で用いる。
事件番号: 昭和40(あ)1868 / 裁判年月日: 昭和40年12月24日 / 結論: 棄却
強盗に着手した者が、被害者に暴行を加えて傷害の結果を生じさせたときは、財産上不法の利益をえることができなかつた場合においても、強盗傷人罪の既遂となるものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和23(れ)1280 / 裁判年月日: 昭和24年1月27日 / 結論: 棄却
一 刑法第二四〇條前段所定の強盜傷人の既遂罪は、強盜の身分を有する者が強盜の實行中又はその機會に傷害の結果を發生せしめる以て直ちに成立するものである、そしてその強盜たる身分は強盜に着手するか又はいわゆる準強盜と認むべき行爲を爲すによりこれを取得するもので、財物を得ると否とは、「窃盜財物を得てその取還を拒ぐ」場合の外その…
事件番号: 昭和24(れ)1091 / 裁判年月日: 昭和24年7月16日 / 結論: 棄却
上告趣意一の強盜行爲(原判決判示第一の事實)は未遂であることは原判決もそのとおりに認定しているのであるが、その現場において傷人した以上は、たとい強盜行爲は未遂であつても、刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は成立するのである。