論旨は、諸般の事情を縷々陳述して、原審の科刑情状に比して重きに過ぎる所以を説き、被告人に對しては罰金刑又は執行猶豫の言渡を爲すべきであると主張するのである。しかし、假りに所論のような事情があつたとしても、原審が判示犯行を認定して、被告人に對し懲役六月の實刑を言渡したことをもつて違法であると速斷することはできない。
刑の量定及び執行猶豫の言渡に關する事實審の自由裁量權
刑訴應急措置法13條2項,刑法25條
判旨
判決書において刃渡りの長さが具体的に数値で示されていなくとも、根拠条文の引用や押収された証拠との関係から、法規に定める基準(15センチメートル以上)を満たすことが明らかであれば、判示事実として欠けるところはない。また、証拠として現存する物の客観的属性が明らかであれば、重ねて証拠調べを行う必要はない。
問題の所在(論点)
判決書において、処罰要件となる物件の具体的な形状や数値(刃渡り等)が明記されていない場合に、事実摘示として不十分(理由不備等)となるか。また、客観的に明らかな証拠物の属性について証拠調べを省略することの是非が問題となる。
規範
判決における事実摘示は、処罰の根拠となる法令の構成要件に該当することを明確にするものであれば足り、具体的な数値の記載を欠いても、引用法条や他の判示内容からその要件(本件では刃渡り15センチメートル以上)を満たすことが合理的に理解できるのであれば適法である。また、証拠物が現に存在し、その属性が明白な事実については、裁判所の判断において改めて証拠調べを要しない。
重要事実
被告人は短刀を所持していたとして、銃砲等所持禁止令違反で起訴された。原判決は、所持していた短刀の具体的な刃渡りの長さを判文中に明示していなかったが、判示の冒頭で同令にいう「銃砲等の所持」に言及し、法令摘示において刃渡り15センチメートル以上の短刀を対象とする施行規則を引用していた。また、証拠として押収された短刀(証第1号)が存在しており、記録上の巡査報告書によればその刃渡りは30センチメートルであった。
事件番号: 昭和25(れ)1212 / 裁判年月日: 昭和25年12月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決における「罪となるべき事実」とは、構成要件に該当する事実、違法性及び責任を基礎付ける事実を指し、その他の情状や証拠の評価に関する事項については、判決にその判断を明記することを要しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において有罪判決を受けた際、原判決が特定の事項について判断を記さなかったこ…
あてはめ
原判決は「銃砲等所持禁止令」及び同施行規則を引用しており、これによって「刃渡り15センチメートル以上の短刀」の所持を認定した趣旨は明らかである。加えて、証拠として現存する短刀(証第1号)は記録上30センチメートルであることが確認でき、構成要件を満たす事実に疑いはない。このような現存する証拠物の客観的事実については、更なる証拠調べを要せずとも裁判所は認定可能であり、具体的な数値の不記載は判決の結論に影響しない。
結論
原判決に違法はなく、上告を棄却する。具体的な数値の記載がなくても、法令の引用等により構成要件充足が明らかであれば、事実摘示として是認される。
実務上の射程
刑事訴訟における事実摘示の程度に関する基準を示すものである。実務上は、構成要件に直結する数値(薬物の分量、刃物の長さ等)は明記すべきであるが、判決書全体からその要件充足が合理的に読み取れる場合には、直ちに理由不備とはならないという柔軟な解釈を認めている。
事件番号: 昭和23(れ)175 / 裁判年月日: 昭和23年6月29日 / 結論: 棄却
短刀であると小刀であるとを問わず刄渡り十五糎以上のものの所持は凡て銃砲等所持禁止令に違反するものと解することを相當とするから同令に違反するのは短刀の場合で小刀の場合は含まないという論旨の理由がない。
事件番号: 昭和23(れ)1984 / 裁判年月日: 昭和24年4月5日 / 結論: 棄却
拳銃と言えば社會通念上彈丸發射の機能を有する装藥銃砲であることがわかるのであるから、銃砲等所持禁止令に所謂銃砲に該當するものであることを窺い知ることができるし、また原判決舉示の證據物によつて、同法の所謂銃砲に該當することを認め得るから所論の如き違法はない。
事件番号: 昭和24(れ)1973 / 裁判年月日: 昭和24年11月1日 / 結論: 棄却
公判請求書の公訴事実に、被告人の自宅において隠匿所持したとあるのを、原判決摘示事實のように、自動車で運搬して所持したと認定しても、それは本件銃砲等不法所持の態様が異なつただけで基本たる事實に相違を來たしたのでないことは、右の公判請求書の公判事實と原判決摘示事實第一とを比照すればおのずから明らかである。よつて原判決には所…
事件番号: 昭和24(れ)1502 / 裁判年月日: 昭和24年11月10日 / 結論: 棄却
銃砲等所持禁止令違反罪は、銃砲等を所持するを以て直に成立するものであるから、本件拳銃の所持携帯が、假りに數時間に過ぎなかつたとしても、犯罪の成立を妨げる理由とはならない。