窃盜既遂罪は、犯人が不法領得の意思を以て事實上他人の占有すなわち社會通念上他人の支配内にあるものと認められる物件を他人の意思に反して自己の支配内に移したとき完全に成立するものであつて、所論のごとく犯人が更にこれを自由に處分し得べき安全な場所に持去ることを要するものではない。
窃盜犯既遂の時期
刑法235條
判旨
窃盗罪は、目的物を他人の意思に反して自己の支配内に移した時に既遂となり、犯人がさらにそれを自由に処分できる安全な場所まで持ち去ることまでは要しない。
問題の所在(論点)
刑法235条の窃盗罪における「窃取」(占有移転)の既遂時期が、物件を完全に安全な場所へ運び出した時点か、あるいは他人の支配を離れて自己の支配下に入れた時点かが問題となった。
規範
窃盗既遂罪は、不法領得の意思をもって、社会通念上他人の支配内にある物件を、他人の意思に反して自己の支配内に移したときに完全に成立する。既遂成立のために、犯人が当該物件を自由に処分し得る安全な場所に持ち去ることまでは必要とされない。
重要事実
被害者が自転車を軒下に置いて対談していたところ、被告人は当該自転車のスタンドを動かし、ハンドルを持ってこれに飛び乗り、走り出した。被告人は走り出してから七、八間(約13〜15メートル)離れた場所で、被害者に自転車を取り戻された。
あてはめ
本件では、被告人が自転車に乗り走り出した時点で、自転車は被害者の事実上の支配を離れ、被告人の支配内に移されたと認められる。被告人が安全な場所まで自転車を持ち去る前であっても、自転車が被告人の実力的な支配下に入った以上、占有の移転は完了したと評価される。
結論
被告人が自転車に飛び乗り走り出した時点で窃盗既遂罪が成立する。
実務上の射程
窃盗罪の既遂時期について「接触時」でも「搬出時」でもなく、占有の排他的・実力的取得を重視する立場を明確にしたものである。自転車のような動産については、犯人がそれを用いて移動を開始した時点で既遂と判断される傾向が強く、本判例はその基礎となる規範を示している。
事件番号: 昭和23(れ)675 / 裁判年月日: 昭和23年10月23日 / 結論: 棄却
凡そ不法に領得する意思を以つて、事實上他の支配内に存する物體を自己の支配内に移したときは、茲に窃盜罪は既遂の域に達するものであつて、必らずしも犯人が之を自由に處分し得べき安全なる位置にまで置くことを必要とするものではない。