豫て時間表によつて同時刻頃下り第二七一號列車も上り列車と相前後して右踏切を通過することが判つている筈であるから踏切警手としては、かかる場合獨り上り列車のみならず、當然下り列車の通過の有無をもたしかめた上で踏切を遮斷するか否かを決定し、事故の發生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
踏切警手の業務上の注意義務の一場合
刑法211條
判旨
踏切警手は、時間表上上下両列車の通過が予見される場合、一方の列車の信号のみならず他方の列車の通過の有無をも確認して踏切遮断の可否を決定すべき業務上の注意義務を負う。この注意義務を怠り、一方の列車にのみ注視して他方の列車の確認を怠った場合には、業務上の過失が認められる。
問題の所在(論点)
踏切警手が一方の列車の通過に対応する際、時間表等から予見可能な他方の列車の通過についても確認すべき業務上の注意義務を負うか。また、その確認を怠ったことが業務上の過失を構成するか。
規範
業務上の過失(刑法211条前段)における注意義務の基準は、結果発生の予見可能性を前提とし、当該業務に従事する者として客観的に要求される結果回避措置を尽くしたか否かにより判断される。特に複数の危険対象(本件では上下両列車)が接近することが時間表等により予見可能な状況下では、そのすべての対象について安全を確認し、事故を未然に防止すべき具体的な義務を負う。
重要事実
踏切警手である被告人は、昭和21年10月12日午前10時17分頃、上り列車通過の信号を受けて踏切へ向かった際、貨物自動車の通行を優先させるため遮断機を降ろさなかった。被告人は時間表により同時刻頃に下り列車も相前後して通過することを知り得たにもかかわらず、上り列車にのみ気を取られ、下り列車の確認を怠った。その結果、踏切内に進入した自動車と下り列車が衝突する事故が発生した。
あてはめ
被告人は踏切警手として、時間表上、上り列車と下り列車がほぼ同時刻に通過することを予期すべき立場にあった。それにもかかわらず、上り列車の信号のみに心を奪われ、下り列車の通過の有無を確かめるという当然なすべき確認を全く行わなかった。この注意を払っていれば、遮断機を降ろす等の措置により自動車の進入を防ぎ、衝突を回避できたといえる。したがって、被告人が下り列車への考慮を完全に欠いたことは、業務上の注意義務に違反するものと解される。
結論
被告人には業務上の過失が認められる。下り列車が時間表通り正確に到達したか否かは、過失の認定に影響を及ぼさない。
実務上の射程
本判決は、複数の危険要因が予見される業務における注意義務の範囲を明確にしている。答案上は、過失犯の成立要件である「注意義務の違反」を論じる際、予見可能性に基づきどの程度の確認や回避措置が具体的に要求されるかを基礎づける論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)900 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
原審は、その判決によつて、本件衝突の現場が島原市a町の鉄道踏切であつて「同所附近は通路の両側に商店、事務所等が櫛比していて左右の見通しが利かず、同踏切に遮断機の設備はあるが同時刻頃は既に踏切看守の勤務時間外のこととて遮断機は開放されたままになつており、他に自動信号器等の備えつけもなく、汽車の進行接近状況を確認するために…
事件番号: 昭和41(あ)1000 / 裁判年月日: 昭和42年2月16日 / 結論: 棄却
専用軌道を有する電車の運転士は、夜間、警手のいない踏切を通過する場合には、特別の事情のない限り、電車の速度を低減し、もしくはその進行を停止して、不慮の事故に備えるべき義務はないが、その進路前方の沿線に火災を発生したことを知り、しかもその発生場所を適確に知ることができない状況にあるときは、運転台からその煙を望見しうる限り…
事件番号: 昭和36(あ)2147 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
自動車の運転手たる者は、踏切を通過するに当つては、たとえ踏切遮断機が設置されている場合でも、その故障又はこれを操作する踏切警手の過失等のため、踏切遮断機の解放中に列車、電車等が踏切を通過することが絶無とは云えないから、踏切遮断機のみを信頼することなく、必らず踏切の前で一時停車をした上、自ら踏切の左右を見透すとか、列車又…