判旨
見通しが悪く、警手や自動警報器等の設備がない踏切を通過する際、自動車運転者は、一旦停止して列車の進行の有無を確認すべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
見通しが悪く、かつ警報機等の設備がない踏切において、自動車運転者が一旦停止して安全を確認すべき注意義務(業務上過失致死傷罪における注意義務)を負うか。
規範
踏切を通過する自動車運転者は、現場の状況に応じ、列車の通過による危険を回避するために必要な措置を講じるべき注意義務を負う。特に、視認性が低く安全確保のための設備が欠如している場所においては、条理上、一旦停止及び安全確認の義務が課される。
重要事実
被告人が自動車を運転して踏切にさしかかった際、当該地点は通行の車馬にとって列車線路の見通しが利かない状況であった。また、当該踏切には警手の配置がなく、自動警報器等の安全設備も設置されていなかった。このような状況下で、被告人が安全確認を十分に行わずに踏切に進入したことが問題となった。
あてはめ
本件踏切は、列車線路の見通しが利かず、かつ警手や自動警報器といった安全設備が一切存在しないという危険な状況にあった。このような客観的状況下では、列車との衝突という重大な結果を回避するため、自動車運転者には「一旦自動車を踏切前に停止」させ、「列車の進行の有無を確認」した上で通過すべき注意義務が条理上明白に認められる。被告人がこの義務を怠ったことは、過失の存在を基礎付けるものといえる。
結論
自動車運転者には、本件のような状況の踏切において一旦停止・安全確認を行うべき注意義務があり、これを怠った以上、過失が認められる。
実務上の射程
過失犯の注意義務の内容を、道路交通法等の成文法規のみならず「条理」に基づいて画定した事例である。特に視界不良かつ設備不備の踏切における「一旦停止義務」を肯定した点に意義があり、実務上、具体的な現場状況から予見可能性・結果回避義務を導き出す際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)900 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
原審は、その判決によつて、本件衝突の現場が島原市a町の鉄道踏切であつて「同所附近は通路の両側に商店、事務所等が櫛比していて左右の見通しが利かず、同踏切に遮断機の設備はあるが同時刻頃は既に踏切看守の勤務時間外のこととて遮断機は開放されたままになつており、他に自動信号器等の備えつけもなく、汽車の進行接近状況を確認するために…
事件番号: 昭和36(あ)2147 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
自動車の運転手たる者は、踏切を通過するに当つては、たとえ踏切遮断機が設置されている場合でも、その故障又はこれを操作する踏切警手の過失等のため、踏切遮断機の解放中に列車、電車等が踏切を通過することが絶無とは云えないから、踏切遮断機のみを信頼することなく、必らず踏切の前で一時停車をした上、自ら踏切の左右を見透すとか、列車又…
事件番号: 昭和37(あ)2209 / 裁判年月日: 昭和37年12月28日 / 結論: 棄却
踏切警手のごとく人の生命、身体に危害を生ずるおそれあるいわゆる危険業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危害を防止するため法律上、慣習上若しくは条理上必要なる一切の注意をなすべき業務を負担するものであつて、法令上明文のない場合といえどもこの義務を免かれない。