原審は、その判決によつて、本件衝突の現場が島原市a町の鉄道踏切であつて「同所附近は通路の両側に商店、事務所等が櫛比していて左右の見通しが利かず、同踏切に遮断機の設備はあるが同時刻頃は既に踏切看守の勤務時間外のこととて遮断機は開放されたままになつており、他に自動信号器等の備えつけもなく、汽車の進行接近状況を確認するためには、一旦バスを停止させ運転手自身若しくは同乗の車掌においてバスを降りて踏切の安全を確認する以外に、踏切通過の安全を確認する方法がない場所である」事実を認定した上、かかる状況においては、自動車運転手たるものは踏切を通過する前よろしくバスを停車して右のような措置をとり安全であることを確認した上進行すべき業務上の注意義務があることを説示しているのであつて、以上のような認定事実の下に原判示のような注意義務のあることはもとより当然であるから、原判決には所論のような違法はない。
鉄道踏切における自動車運転手の注意義務の認定
刑法211条,旧刑訴法360条1項
判旨
踏切通過時に周囲の視界が遮られ、かつ遮断機等の安全設備が機能していない状況下では、運転手は車両を一時停止させ、自らまたは同乗者が降車して安全を確認すべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
刑法上の業務上過失致死傷罪(当時の旧法下)における過失の成否に関し、見通しが悪く安全設備も機能していない踏切において、運転手が負うべき具体的な業務上の注意義務の内容が問題となった。
規範
業務上の注意義務として、事故発生の具体的危険が高い特殊な状況下においては、単なる徐行や目視にとどまらず、確実な安全確認を可能にするための「一時停止」および「降車等による確認」といった具体的な回避措置を講じる義務がある。
重要事実
バス運転手が島原市内の鉄道踏切を通過する際、道路両側に建物が密集し左右の見透しが極めて悪かった。当該踏切には遮断機があったものの、当時は看守の勤務時間外で開放されたままになっており、自動信号機等の設備も存在しなかった。このような状況では、運転席からの目視だけでは汽車の接近を確認することが不可能な場所であった。
あてはめ
本件現場は、建物の櫛比により左右の視認が困難であり、かつ遮断機が開放され自動信号機もないという「安全確認が著しく困難な場所」である。このような状況では、汽車の進行を確認するために、単に進行するだけでは足りず、一旦バスを停止させ、運転手自身または車掌がバスを降りて踏切の安全を直接確認する以外に安全を確保する方法がない。それゆえ、被告人はこれらの措置を講じるべき具体的な注意義務を負っていたといえる。
結論
被告人が一時停止・降車による確認を怠ったことは、業務上の注意義務違反にあたり、過失が認められる。
実務上の射程
交通事故における具体的注意義務の程度を画した判例である。現代の道路交通法下では一時停止義務が類型化されているが、本判決は、法規上の義務を超えて、現場の客観的状況(視認性や設備の欠如)から導き出される「結果回避に必要不可欠な措置」を注意義務として具体化する際の論理構成として参考になる。
事件番号: 昭和30(あ)2634 / 裁判年月日: 昭和32年12月6日 / 結論: 棄却
無看視踏切を通過する貨車入替業務に当り、制動手は突放貨車に乗車するに際し、前方の安全確認義務あるのみならず、制動手としての固有の作業をなして、なお余裕ある場合は、他の係員の作業範囲に亘りて、貨車入替業務に関し危険の発生を未然に防止すべき注意義務を負うものと解すべきである。
事件番号: 昭和22(れ)315 / 裁判年月日: 昭和23年5月6日 / 結論: 棄却
豫て時間表によつて同時刻頃下り第二七一號列車も上り列車と相前後して右踏切を通過することが判つている筈であるから踏切警手としては、かかる場合獨り上り列車のみならず、當然下り列車の通過の有無をもたしかめた上で踏切を遮斷するか否かを決定し、事故の發生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
事件番号: 昭和36(あ)2147 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
自動車の運転手たる者は、踏切を通過するに当つては、たとえ踏切遮断機が設置されている場合でも、その故障又はこれを操作する踏切警手の過失等のため、踏切遮断機の解放中に列車、電車等が踏切を通過することが絶無とは云えないから、踏切遮断機のみを信頼することなく、必らず踏切の前で一時停車をした上、自ら踏切の左右を見透すとか、列車又…
事件番号: 昭和41(あ)1000 / 裁判年月日: 昭和42年2月16日 / 結論: 棄却
専用軌道を有する電車の運転士は、夜間、警手のいない踏切を通過する場合には、特別の事情のない限り、電車の速度を低減し、もしくはその進行を停止して、不慮の事故に備えるべき義務はないが、その進路前方の沿線に火災を発生したことを知り、しかもその発生場所を適確に知ることができない状況にあるときは、運転台からその煙を望見しうる限り…