自動車の運転手たる者は、踏切を通過するに当つては、たとえ踏切遮断機が設置されている場合でも、その故障又はこれを操作する踏切警手の過失等のため、踏切遮断機の解放中に列車、電車等が踏切を通過することが絶無とは云えないから、踏切遮断機のみを信頼することなく、必らず踏切の前で一時停車をした上、自ら踏切の左右を見透すとか、列車又は電車等の進行音に注意し、なお場合によつては車掌を下車させて誘導させる等の方法によつて、踏切通過が絶対に安全であることを確認した上で踏切を通過すべきであり、特に踏切現場が左右の見透困難な場合においては尚一層念を入れて踏切通過の安全を確認すべき業務上の注意義務がある。
踏切を通過しようとする場合における自動車運転手の業務上の注意義務。
刑法211条,道路交通法取締法15条
判旨
自動車運転者は、踏切遮断機が設置されている場合であってもその故障等の可能性を考慮し、一時停止や安全確認等を行い、踏切通過が絶対に安全であることを確認すべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
踏切遮断機が設置・解放されている踏切を通過しようとする自動車運転者に対し、遮断機の表示を信頼する以上に、一時停止や直接の目視等による安全確認を行うべき業務上の注意義務が課されるか。いわゆる「信頼の原則」の適用限界が問題となる。
規範
自動車運転手は、踏切を通過するに際しては、設置された踏切遮断機の表示のみを過信することなく、踏切遮断機の故障や操作員の過失等の可能性を予見し、自ら一時停車、左右の目視確認、列車の進行音への注視、あるいは誘導員による安全確認等の手段を尽くして、通過の絶対的な安全を確認すべき業務上の注意義務を負う。特に左右の見透しが困難な場所においては、より慎重な確認を行うべきである。
重要事実
被告人Qは、自動車運転手として踏切を通過する際、踏切遮断機が解放されていたため、これを信頼して通過しようとした。しかし、当該踏切において列車と衝突する事故が発生した。被告人は、遮断機の状態を信頼したことに過失はないと主張したが、原審は踏切手前での一時停止や目視、音による安全確認を怠った点に業務上過失致死傷罪(当時の構成要件)の成立を認めた。
事件番号: 昭和37(あ)2209 / 裁判年月日: 昭和37年12月28日 / 結論: 棄却
踏切警手のごとく人の生命、身体に危害を生ずるおそれあるいわゆる危険業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危害を防止するため法律上、慣習上若しくは条理上必要なる一切の注意をなすべき業務を負担するものであつて、法令上明文のない場合といえどもこの義務を免かれない。
あてはめ
踏切遮断機は機械的故障や操作員の過失により、列車通過中であっても解放されている可能性が絶無ではない。本件において被告人は、遮断機が解放されていることのみをもって安全と判断したが、自動車運転者の一般的注意義務としては、遮断機を過信せず自ら安全を確認すべきである。特に左右の見透しが困難な現場においては、一時停止や音への注意を尽くすべき義務があるといえ、これらを怠った以上、注意義務違反が認められる。
結論
被告人は踏切通過時の安全確認義務を怠ったものといえ、業務上過失致死傷罪の成立を肯定した原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、踏切における「信頼の原則」の適用を厳格に制限し、運転者に高度な注意義務を課したものである。司法試験の答案上は、過失の具体的注意義務の内容を論じる際、遮断機の存在にかかわらず一時停止や目視が要求される根拠(故障等の予見可能性)として引用すべき射程を持つ。
事件番号: 昭和28(あ)343 / 裁判年月日: 昭和30年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】見通しが悪く、警手や自動警報器等の設備がない踏切を通過する際、自動車運転者は、一旦停止して列車の進行の有無を確認すべき注意義務を負う。 第1 事案の概要:被告人が自動車を運転して踏切にさしかかった際、当該地点は通行の車馬にとって列車線路の見通しが利かない状況であった。また、当該踏切には警手の配置が…
事件番号: 昭和22(れ)315 / 裁判年月日: 昭和23年5月6日 / 結論: 棄却
豫て時間表によつて同時刻頃下り第二七一號列車も上り列車と相前後して右踏切を通過することが判つている筈であるから踏切警手としては、かかる場合獨り上り列車のみならず、當然下り列車の通過の有無をもたしかめた上で踏切を遮斷するか否かを決定し、事故の發生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
事件番号: 昭和25(れ)900 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
原審は、その判決によつて、本件衝突の現場が島原市a町の鉄道踏切であつて「同所附近は通路の両側に商店、事務所等が櫛比していて左右の見通しが利かず、同踏切に遮断機の設備はあるが同時刻頃は既に踏切看守の勤務時間外のこととて遮断機は開放されたままになつており、他に自動信号器等の備えつけもなく、汽車の進行接近状況を確認するために…