踏切警手のごとく人の生命、身体に危害を生ずるおそれあるいわゆる危険業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危害を防止するため法律上、慣習上若しくは条理上必要なる一切の注意をなすべき業務を負担するものであつて、法令上明文のない場合といえどもこの義務を免かれない。
踏切警手の注意義務と法令上の根拠。
刑法211条
判旨
危険業務に従事する者は、業務の性質上、法令の明文がなくとも法律・慣習・条理上必要な一切の注意義務を負う。踏切警手が警報機の鳴動中に漫然と遮断機を開放した行為は、規程上の禁止規定の有無にかかわらず業務上過失致死傷罪の注意義務に違反する。
問題の所在(論点)
刑法211条前段の業務上過失致死傷罪における注意義務の根拠について、法令や規程に明文の根拠がない場合であっても、条理等に基づき注意義務を認めることができるか。
規範
人の生命・身体に危害を生ずるおそれのある危険業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危害を防止するために法律上、慣習上または条理上必要とされる一切の注意をなすべき義務を負う。この義務は、法令上に明文の規定がない場合であっても免れるものではない。
重要事実
踏切警手の被告人は、警報機が上り電車の通過後もしばらく鳴動を続ける仕様(通過後約70メートル地点まで継続)であることを把握していた。ある時、上り電車が通過した直後(約15メートル地点)、依然として警報機が鳴動中であったにもかかわらず、下り電車の接近の有無を確認せず、上り電車のみによる鳴動と軽信して遮断機を開放した。その結果、踏切内に進入した者と下り電車が衝突する事故が発生した。なお、勤務規程には警報機鳴動中の開放を禁止する明文の規定は存在しなかった。
事件番号: 昭和36(あ)2147 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
自動車の運転手たる者は、踏切を通過するに当つては、たとえ踏切遮断機が設置されている場合でも、その故障又はこれを操作する踏切警手の過失等のため、踏切遮断機の解放中に列車、電車等が踏切を通過することが絶無とは云えないから、踏切遮断機のみを信頼することなく、必らず踏切の前で一時停車をした上、自ら踏切の左右を見透すとか、列車又…
あてはめ
被告人の従事する踏切警手業務は、鉄道の運行と道路交通の交錯点において人の生命・身体に重大な危害を及ぼし得る危険業務である。本件踏切の警報機は上り下りの判別が困難な仕様であったことから、警報機が鳴動している以上、反対方向からの列車接近の可能性を考慮すべき条理上の義務がある。規程に明文の禁止規定がないとしても、危険業務の性質から導かれる事故防止のための必要不可欠な注意を怠り、漫然と遮断機を開放したことは、業務上の注意義務に違背するといえる。
結論
被告人の行為は業務上の注意義務に違反し、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
注意義務の根拠が法令に限定されないことを明示した重要判例。答案では、過失犯の成立を論じる際、具体的な注意義務の根拠として、法令のほか「条理(業務の危険性から導かれる性質上の要請)」を引用する際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和28(あ)343 / 裁判年月日: 昭和30年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】見通しが悪く、警手や自動警報器等の設備がない踏切を通過する際、自動車運転者は、一旦停止して列車の進行の有無を確認すべき注意義務を負う。 第1 事案の概要:被告人が自動車を運転して踏切にさしかかった際、当該地点は通行の車馬にとって列車線路の見通しが利かない状況であった。また、当該踏切には警手の配置が…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和22(れ)315 / 裁判年月日: 昭和23年5月6日 / 結論: 棄却
豫て時間表によつて同時刻頃下り第二七一號列車も上り列車と相前後して右踏切を通過することが判つている筈であるから踏切警手としては、かかる場合獨り上り列車のみならず、當然下り列車の通過の有無をもたしかめた上で踏切を遮斷するか否かを決定し、事故の發生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。