一 判決宣告期日の公判調書に、公開を禁じた旨の記載がない限り、判決の宣告は、公開法廷で行われたものと認めることができる。 二 審理が風俗を害する虞があるとして、裁判所が公判の公開を禁じた場合には、その公開禁止の効力は、結審後の判決宣告期日の公判には及ばないものと解すべきである。 三 裁判が公開の法廷において公正な裁判所によつてなさるべきことは所論のごとく憲法の明定するところである。ただ公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある場合には、裁判官の全員一致で對審を公開しないで行うことができることは、憲法第八二條第二項の定めているところである。そして、本件記録を調査すると(イ)所論のように「裁判長は合議の上爾後の審理は風俗を害する虞あるにより公開を禁止する旨を告げ非公開とした」との記載が昭和二二年九月三〇日の公判調書に明記されている。かくとごとく裁判所が非公開で審理をした場合には「裁判官の全員一致で」公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決定した旨を明確な表現で調書に記載しておくことが大切である。そこで本件調書に「合議の上」風俗を害する虞あるにより公開を禁止した旨を告げ非公開としたとの記載は嚴格にいえば稍不正確の嫌があるがしかしなお裁判所法にいわゆる評議を經て裁判官全員の意見が合致して非公開を決定したものと認め得るのである強いて所論のように評議の結果多數決をもつて公開を禁止したものと解すべき根據は全記録の何處にも見當らない。 四 判決宣告期日の公判調書に公開を禁じた旨の記載がない限り判決の宣告は、公開法廷で行われたものを認むべきである。 五 論旨は被害者が強姦行爲に對し力一杯反抗した證據と被害者が畏怖し抗拒不能となつているのに乘じて右手の腕時計をもぎ取つて強取した犯罪事實との間は重要な齟齬があるというのであるが、本件被害者は「ぐずぐずしておれば強姦され私の一生は臺無にされると思い私は力一杯の元氣を出して反抗しました處相手は私に馬乘りになつた儘左手にはめていた腕時計をもぎ取り」し旨を供述しているのであつて、婦人が強姦に對し本能的に強く反抗したからといつて前記状態において畏怖を感じ腕時計の強奪に對し抗拒不能であつたと原審が認定したことは常識上むしろ當然であつて毫も所論のような齟齬を存在しない。
一 公判の公開と公判調書の記載 二 公開禁止の決定の効力 三 裁判官が「合議の上」裁判の公開を禁止した旨の公判調書の記載と憲法第八二條 四 強盗行爲に對し必死に反抗中の被害者から腕時計を奪取した行爲と強盗罪の成立
刑訴法60条2項4号,刑訴法64条,刑訴法410条7号,憲法82条,刑訴法60条2項4号,刑訴法64条,刑法177条,刑法236条
判旨
裁判の公開原則(憲法82条)に関し、公判調書に公開を禁止した旨の記載がない限り、対審及び判決は公開で行われたものと認められる。対審の一部が非公開とされた場合であっても、特段の記載がない限り、その後の判決宣告は公開で行われたものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
1. 憲法82条2項但書に基づく対審の公開禁止決定において、調書に「全員一致」の文言が欠けている場合、当該手続は違憲・違法となるか。 2. 憲法上の裁判公開原則(82条1項)の下で、公判調書に「公開したこと」を明記する必要があるか。 3. 対審が非公開とされた場合、判決宣告も当然に非公開となるのか、あるいは公開されたものと認定できるか。
規範
1. 憲法82条2項但書に基づき対審を非公開とするには、裁判官の全員一致による決定が必要であり、その旨を調書に明確に記載すべきである。2. もっとも、裁判の公開はわが国の実務上常態化しているため、公判調書に「公開したこと」を明記する必要はなく、公開を禁止した旨の記載がなければ公開されたものと認められる。3. 対審において公開禁止措置がとられた場合でも、その効力は原則として当該審理に限定され、判決宣告期日において重ねて公開禁止の記載がない限り、公開の原則に立ち返る。
重要事実
被告人は強姦致傷罪等で起訴された。第一審の公判調書には、審理の一部において「風俗を害するおそれがある」として合議の上で公開を禁止した旨の記載があったが、判決宣告期日の調書には公開禁止の記載はなかった。被告人側は、①対審の公開禁止決定が「裁判官の全員一致」である旨の記載を欠き不適法であること、②判決宣告期日において公開した旨の記載がないことは憲法82条および刑事訴訟法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 本件調書には「合議の上」非公開とした旨の記載がある。これは、裁判所法上の評議を経て裁判官全員の意見が合致したものと認められ、多数決による禁止と解すべき根拠もないため、実質的に憲法の要求を満たす。 2. 現行刑事訴訟法(当時)は、公開禁止の場合のみ調書記載を要する(旧法改正の趣旨)。公開は当然の前提であり、調書上おのずから判明すれば足り、特段の明記がなくても憲法に違反しない。 3. 本件の公開禁止は、風俗を害するおそれがある審理に限定された趣旨と解される。判決宣告期日の調書には公開禁止の記載がない以上、公開法廷で行われたものと認定できる。
結論
本件各手続に憲法および刑事訴訟法の違反はない。判決宣告は公開で行われたものと認められるため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における「裁判の公開」の瑕疵を争う際のリーディングケース。公判調書の「記載がないこと」の証明力(刑訴法52条関連)に関し、公開については「禁止の記載がない=公開された」という不作為による証明を認めている。答案上は、対審非公開の要件(全員一致)の充足性や、判決宣告の公開性の認定手法として引用すべき判例である。
事件番号: 平成6(あ)526 / 裁判年月日: 平成6年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判の対審を非公開とする措置が憲法82条2項但書に該当する場合、当該措置は違憲とはならず、第一審の判断に正当な理由がある限り適法である。 第1 事案の概要:被告人の第一審において、裁判所が対審を非公開とする措置を講じた。これに対し、弁護人は当該措置が裁判の公開原則に反し違憲であると主張して上告した…