憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や公平のおそれのない組織と構成をもつた裁判所による裁判を意味するものであつて、個々の事件につきその内容實質が具體的に公平妥當なる裁判を指すのではない。從つて所論のように同規定を以て刑の言渡が苛酷で妥當を缺く場合には刑訴應急措置法第一三條第二項の規定如何にかかわらず、憲法上これを上告理由とすることができるとした趣旨の規定であると解することはできない。それ故被告人を懲役一年に處し刑の執行猶豫を與えなかつた原判決を目して刑の言渡が情状に比し餘りに苛酷であつて前記憲法の規定に違反すると主張本論旨は當らない。
憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」と苛酷な刑の言渡を理由とする上告
憲法37條1項,刑訴應急措置法13條2項
判旨
憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつ裁判所による裁判を意味し、判決内容が具体的に公正妥当であることを指すものではない。したがって、量刑が苛酷であることを理由に同条違反を主張することはできない。
問題の所在(論点)
量刑の不当(苛酷さ)を理由に、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」を受ける権利の侵害を主張して上告することができるか。換言すれば、同条の「公平」が裁判の内容的妥当性までを含むかどうかが問題となる。
規範
憲法37条1項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、裁判の組織および構成において、偏頗(へんぱ)や不公平が生じるおそれのない状態を確保することを意味する。判決の内容実質が個別の事件において具体的に公正妥当であることを直接保障するものではない。
重要事実
被告人Aは、懲役1年に処され、執行猶予が付されなかった原判決に対し、その量刑が情状に比してあまりに苛酷であり妥当を欠くものであると主張した。被告人側は、このような不当な判決は憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」を受ける権利に違反し、上告理由(刑訴法上の不当な刑の言渡し等)になると主張して上告を申し立てた。
あてはめ
憲法37条1項の趣旨は、裁判所の組織的な公正性を担保することにある。本件において被告人が主張する「刑の言渡しが苛酷である」という点は、裁判所の組織や構成の不備をいうものではなく、裁判官の自由裁量に属する量刑判断の妥当性を争うものである。このような実質的内容の是非は、同条が保障する「公平」の概念には含まれないため、憲法違反の問題は生じない。また、執行猶予の成否は事実裁判所の裁量に属する事項である。
結論
憲法37条1項違反の主張は当たらない。量刑の不当や事実誤認の主張は、当時の刑事訴訟応急措置法13条2項(現行刑訴法における上告理由の制限に相当)の規定により、適法な上告理由とはならない。
実務上の射程
憲法37条1項の「公平」が「組織・構成」の公正を指すことを明確にしたリーディングケースである。答案上は、裁判官に忌避事由がある場合や、裁判所の構成に瑕疵がある場合に同条を援用すべきであり、判決内容の不当性を憲法問題にすり替えて主張する際の否定根拠として用いる。
事件番号: 昭和28(あ)3308 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所を指し、個々の裁判の内容が具体的に公正妥当であることを保障するものではない。 第1 事案の概要:被告人が窃盗等の罪に問われた事件において、第一審の公判廷で証拠同意の上で適法に証拠調べが行われた盗難被害届や上…
事件番号: 昭和23(れ)841 / 裁判年月日: 昭和23年12月4日 / 結論: 棄却
憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつ裁判所の裁判を意味するものであつて、個々の事件について具體的に構成妥當な裁判を指すものではない(昭和二三年六月九日言渡昭和二二年(れ)第一三八號事件參照)。從つて、假りに、所論のように言渡された刑が他の同種内容の事件と比較…
事件番号: 昭和28(あ)42 / 裁判年月日: 昭和28年7月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、主観的に裁判の内容が不公平であると思料される裁判所を指すものではない。また、実刑の言渡しをすることも憲法13条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aおよび被告人Bが、実刑を言い渡されたこと等に不服を抱き上告した事案。被告人側は、実刑の言渡しが憲法13条…