租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならず、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものかどうか、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮が不可欠である。
課税処分と信義則の適用
国税通則法24条,所得税法1条,民法1条2項
判旨
租税法律主義が支配する租税法規の適用において信義則の適用が認められるのは、税務官庁による公的見解の表示を信頼した納税者の保護が正義の観点から不可欠な特別の事情がある場合に限られる。青色申告の承認を受けていない者が青色申告書を提出し、税務署長がこれを受理・収納し続けたとしても、直ちに信義則適用の基礎となる公的見解の表示があったとは認められない。
問題の所在(論点)
青色申告の承認(所得税法143条以下)を受けていない納税者に対し、税務署長が長年青色申告として受理し続けていた事実に鑑み、後に白色申告として更正処分を行うことが信義則に反し違法となるか。
規範
租税法律関係において信義則の法理を適用するには、租税公平主義を犠牲にしてもなお納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえる「特別の事情」を要する。その判断には、①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼し行動したこと、③後に表示に反する課税処分が行われ、納税者が不利益を被ったこと、④納税者の信頼につき帰責事由がないこと、の4要素を考慮すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)49 / 裁判年月日: 昭和35年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他名義の預金の存在や、所得率が著しく低いこと等は、所得税法上の青色申告承認の取消事由に該当し、当該取消処分は適法である。 第1 事案の概要:上告人は青色申告の承認を受けていたが、税務署長(被上告人)は、DおよびEという他人の名義を用いた別途預金が存在していること、および所得率が実態に比して著しく過…
重要事実
酒類販売業を営む父Dの事業を継承した被上告人は、Dの青色申告承認が承継されると誤信し、自らは承認申請を行わずに数年間青色申告書を提出し続けた。税務署長(上告人)は、承認の有無を確認せずに申告書を受理し、青色申告用紙の送付や税金の収納を行っていた。その後、上告人は被上告人が承認を受けていないことを理由に、過去の申告を白色申告とみなす更正処分を行った。
あてはめ
まず、青色申告の承認は設権的処分であり、承認申請のない申告に効力は生じない。次に信義則の適否をみるに、納税申告は納税者の自己責任による行為であり、税務署長による単なる申告書の受理や収納は、申告内容を是認する公的見解の表示ではない。また、青色申告用紙の送付も承認の存在を公的に表示したものとはいえない。したがって、本件では信頼の対象となる「公的見解の表示」自体が認められず、特別の事情は存しない。
結論
本件更正処分につき信義則の法理を適用する余地はなく、白色申告として取り扱うべきであるから、当該処分は適法である。
実務上の射程
租税法における信義則適用の厳格な4要件を示したリーディングケースである。答案では、単なる行政側の過失や懈怠だけでは足りず、積極的な「公的見解の表示」が必要であることを強調し、行政の不作為のみでは信義則違反を否定する方向に導くのが基本である。
事件番号: 令和2(行ヒ)103 / 裁判年月日: 令和3年6月24日 / 結論: 破棄自判
相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において,個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で,その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合…
事件番号: 平成18(行ヒ)295 / 裁判年月日: 平成19年7月6日 / 結論: その他
納税者が平成12年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,納税者が同権利行使益を一時所得として申告し,同権利…
事件番号: 平成21(行ヒ)65 / 裁判年月日: 平成22年10月15日 / 結論: 棄却
被相続人が所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に基づき所得税,過少申告加算税及び延滞税を納付するとともに上記各処分の取消訴訟を提起していたところ,その係属中に被相続人が死亡したため相続人が同訴訟を承継し,上記各処分の取消判決が確定するに至ったときは,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,被相続人の相続財産を構…