期限後裏書の被裏書人に対しては、その裏書の裏書人に対する人的抗弁をもつて対抗することができるが、右期限後裏書が戻裏書と同一に評価しうるような特段の事情がない限り、右裏書人の前者に対する人的抗弁をもつて対抗することはできない。
期限後裏書の被裏書人に対抗しうべき人的抗弁の範囲
手形法17条,手形法20条1項,手形法77条1項1号
判旨
期限後裏書の被裏書人に対し、手形債務者はその裏書人(直接の前主)に対する抗弁をもって対抗できるが、戻裏書と同一視できる特段の事情がない限り、裏書人のさらに前主に対する抗弁(人的抗弁)をもって対抗することはできない。
問題の所在(論点)
手形法20条1項但書に基づく期限後裏書において、手形債務者は、直接の裏書人(前主)に対する抗弁のみならず、その前主(裏書人の前主)に対して生じていた人的抗弁をもって譲受人に対抗することができるか。
規範
手形法20条1項但書は、期限後裏書が指名債権譲渡の効力のみを有する旨規定するが、その趣旨は裏書人が有する手形上の権利を移転し、その地位を承継させる点にある。したがって、手形債務者は、期限後裏書の被裏書人に対して、その裏書人(直接の前主)に対する人的抗弁をもって対抗できる。しかし、当該期限後裏書が戻裏書と同一に評価しうるような特段の事情がない限り、裏書人のさらに前主に対する抗弁をもって対抗することはできない。
重要事実
振出人(被上告人ら)は、受取人Dに対し約束手形を振り出したが、後に原因債務につき代物弁済を完了し、原因関係は消滅した。その後、本件手形はDからE銀行へ裏書譲渡され、さらに拒絶証書作成期間経過後(期限後裏書)にE銀行から上告人へ譲渡された。上告人が振出人に対し手形金支払を求めたところ、振出人は、受取人Dに対する原因関係消滅(代物弁済)の人的抗弁を、期限後裏書の譲受人である上告人に対抗できるかが争われた。
あてはめ
本件において、上告人はE銀行から期限後裏書により手形を取得した者である。手形法20条1項但書により、上告人は直接の前主であるE銀行の権利を承継するにとどまる。そのため、振出人(被上告人ら)は、E銀行に対して有する抗弁は対抗できるが、E銀行の前主であるDに対する抗弁(代物弁済による消滅)については、本件裏書が戻裏書と同一視できる等の特段の事情がない限り、当然には対抗できない。原審がこの特段の事情を審理せずに、Dに対する抗弁をもって上告人に対抗できるとした判断は、法令の解釈適用を誤っている。
結論
手形債務者は、期限後裏書の被裏書人に対し、原則として直接の裏書人に対する抗弁のみを対抗でき、裏書人の前主に対する抗弁を対抗することはできない。原判決を破棄し、特段の事情の有無を審理させるため差し戻す。
実務上の射程
期限後裏書の効力(人的抗弁の切断)に関するリーディングケース。答案上は、20条1項但書による「承継」の範囲を確定する際に用いる。債務者が対抗できるのは「直接の裏書人」に対する抗弁に限定されるのが原則であり、前々主に対する抗弁まで及ぼすには「戻裏書と同一視できる特段の事情」が必要であることを明示する。
事件番号: 昭和50(オ)766 / 裁判年月日: 昭和52年9月22日 / 結論: 棄却
甲会社の乙銀行に対する借入金債務を連帯保証人丙及び丁が弁済し、右借入金債務の担保として甲会社が乙銀行に裏書譲渡していた約束手形を丙及び丁が乙銀行から無担保裏書を受けて取得した場合において、甲会社が丙の主宰するワンマン会社ないしは同族会社であつて、丁は丙の三女で本件手形に関する限り丙と実質上も経済上も一体とみることができ…