甲会社の乙銀行に対する借入金債務を連帯保証人丙及び丁が弁済し、右借入金債務の担保として甲会社が乙銀行に裏書譲渡していた約束手形を丙及び丁が乙銀行から無担保裏書を受けて取得した場合において、甲会社が丙の主宰するワンマン会社ないしは同族会社であつて、丁は丙の三女で本件手形に関する限り丙と実質上も経済上も一体とみることができるなど、判示のような事情があるときは、乙銀行から丙及び丁への裏書は、信義則上、乙銀行から甲会社への戻裏書と同一に評価すべきであり、振出人は、甲会社に対抗することができる人的抗弁をもつて、善意の乙銀行の介在にかかわらず、丙及び丁に対しても対抗することができる。
人的抗弁の存在につき手彫所持人の前者が善意であつても、信義則上、人的抗弁をもつて所持人に対抗することができるとされた事例
民法1条2項,手形法17条
判旨
手形債務者から人的抗弁を対抗されている実質的振出人が、善意の第三者を介在させて手形を取得した場合、信義則上、債務者は当該取得者に対しても人的抗弁を対抗できる。
問題の所在(論点)
善意の第三者(銀行)を経由して手形を取得した者が、元の所持人(訴外会社)と実質的に同一と目される場合、手形法17条により遮断されるはずの人的抗弁を対抗できるか。
規範
手形の譲受人が、人的抗弁を対抗される者と経済的利害を共通にする等、実質的に同一とみなせる関係にある場合、善意の第三者を経由した取得であっても、信義則に基づき当該譲渡は戻裏書と同様に評価される。この場合、手形法17条但書の成否にかかわらず、債務者は抗弁の切断を主張する譲受人に対し、元の人的抗弁をもって対抗することができる。
重要事実
被上告人(振出人)が訴外会社に対し人的抗弁を有していた。訴外会社はE銀行に手形を裏書譲渡したが、E銀行は善意であった。その後、訴外会社の代表取締役である上告人A1およびその娘A2(上告人ら)が、訴外会社の債務を代位弁済し、E銀行から手形の交付を受けた。訴外会社はA1が主宰するワンマン会社であり、A2もA1と実質的に経済的一体といえる関係にあった。また、本件取得は、訴外会社への手形引渡を禁止する仮処分を免れる意図が含まれていた。
あてはめ
上告人A1は訴外会社の代表者であり、同社はA1のワンマン会社であることから、両者は密接な経済的利害を共通にしている。また、A2もA1と実質的・経済的に一体の関係にある。さらに、E銀行から上告人らへの譲渡は、被上告人による仮処分決定を潜脱する形で行われた。これらの事実に基づけば、E銀行から上告人らへの裏書は、信義則上、訴外会社への「戻裏書」と同一に評価すべきである。したがって、善意のE銀行が介在していても、抗弁の遮断は認められない。
結論
被上告人は、訴外会社に対抗できる人的抗弁をもって、上告人らに対しても対抗することができる。上告棄却。
実務上の射程
手形法17条の抗弁遮断の原則に対する信義則による例外(権利濫用)を示す。特に、法人格否認の法理に近い場面や、人的抗弁を免れるための迂回取得が疑われる事案において、実質的な「戻裏書」として構成する際の論拠となる。
事件番号: 昭和39(オ)146 / 裁判年月日: 昭和40年4月9日 / 結論: 破棄差戻
約束手形の振出人から人的抗弁の対抗を受けるべき手形所持人は、当該手形を善意の第三者に裏書譲渡したのち戻裏書によつて再びその所持人となつた場合でも、振出人から右抗弁の対抗を受ける。