土地所有者が地上建物を違法に取り壊したため建物所有者において右土地の利用を継続することができない不利益が生じた場合であつても、建物所有者が元来土地の占有権限を有せず、しかも、建物が取り壊されたのちもその解体残材が土地上に放置されたままで土地の不法占有状態が解消されず土地所有者の土地の使用が妨げられているなど原判示の事情のもとでは、土地所有者の右建物所有者に対する土地の賃料相当の損害賠償請求権の行使が権利濫用にあたるとは断じえない。
土地所有者が地上建物を違法に取り壊した場合であつても右建物所有者に対する土地の不法占有を理由とする損害賠償請求権の行使が権利濫用にあたるとは断じえないとされた事例
民法1条3項
判旨
土地所有者が地上建物を違法に損壊・解体しても、不法占有者が解体残材を放置して占有を継続する限り、土地所有者による賃料相当額の損害賠償請求は権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
土地所有者が地上建物を自力救済により違法に損壊した場合において、なお不法占有を続ける占有者に対し、損壊後の期間についても賃料相当額の不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を請求することが権利の濫用(民法1条3項)に当たるか。
規範
土地の不法占有により所有者が使用を妨げられている場合、特段の事情のない限り、所有者は賃料相当額の損害を被っていると解される。所有者が地上建物を違法に損壊したために占有者が土地利用上の不利益を被ったとしても、占有者は別途損害賠償請求等により救済され得るため、所有者による土地占有に基づく損害賠償請求の行使が直ちに権利の濫用(民法1条3項)となるわけではない。
重要事実
土地所有者である上告人は、賃借人から無断で賃借権と地上建物等の譲渡を受けた被上告人に対し、建物を収去し土地を明け渡すよう求めた。上告人は、建物取壊しの承諾を得たものと誤信し、昭和51年3月に建物等を損壊したが、刑事告訴等により作業を中止し、解体残材を放置したままにした。被上告人は建物損壊後は土地を実質的に利用していないが、残材を搬出せず土地の占有を継続していた。原審は、上告人の損壊行為を自力救済的違法行為とし、損壊後の損害賠償請求は双方の不利益の均衡を失うとして権利の濫用と判断した。
事件番号: 昭和39(オ)395 / 裁判年月日: 昭和39年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有権原がない建物の譲受人に対し、土地所有者が建物の撤去及び土地の明渡しを求めることは、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:Dは、厚生省の出張所に勤務しており、上司の了解を得て本件土地上に本件建物を所有・使用していた。しかし、土地所有者である被上告人は、Dに対し当初か…
あてはめ
被上告人は本件建物等の残材を搬出せず放置しており、土地の不法占有状態は解消されていない。したがって、上告人は土地の使用を妨げられ、賃料相当額の損害を被り続けている。上告人が建物を違法に損壊したことで被上告人が土地を利用できない不利益が生じたとしても、被上告人は上告人に対し建物損壊自体の賠償を別途請求することで填補を受ければ足りる。そうであれば、上告人の請求を排斥すべき特段の事情はなく、単に双方の不利益を比較考量しただけで権利の濫用と断ずることはできない。
結論
上告人による損害賠償請求権の行使は権利の濫用には当たらず、被上告人は建物損壊後の期間についても賃料相当額の損害を賠償する義務を負う。
実務上の射程
自力救済という違法な手段を用いた側からの請求であっても、相手方の不法占有が継続している以上、不法占有に基づく損害賠償請求が直ちに封じられるわけではないことを示す。答案上は、不法行為の成立を肯定した上で、権利の濫用の成否を判断する際の考慮要素(別個の損害賠償による調整の可能性)として活用する。
事件番号: 昭和26(オ)426 / 裁判年月日: 昭和29年7月20日 / 結論: 破棄差戻
土地の賃借人は、賃借地上にバラツクを所有する第三者に対し、賃借人であるというだけで(何等特別の事情なく)賃借権侵害を理由として土地明渡を求める権利を有するものではない。
事件番号: 昭和29(オ)72 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が形式上は正当なものであっても、具体的諸事情の下で社会観念上、権利の濫用(民法1条3項)と認められる場合には、その行使は許されない。本件では原審の認定に基づき、被上告人の請求が権利の濫用に当たらないとした判断が支持された。 第1 事案の概要:本件判決文の記述からは具体的な事案の詳細は不明…
事件番号: 昭和39(オ)977 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
土地所有者が、該土地賃借人に対して賃料請求権を有するからといつて、これがため建物所有者(無断転借人)の敷地不法占有により土地所有者に賃料相当の損害を生じないとはいえない。