土地明渡の請求が権利濫用とならない事例。
判旨
占有権原がない建物の譲受人に対し、土地所有者が建物の撤去及び土地の明渡しを求めることは、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
正当な占有権原を欠く建物所有者に対し、土地所有者が建物の撤去及び土地明渡しを求めることが、権利の濫用(民法1条3項)に該当するか。
規範
所有権に基づく土地明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かは、占有権原の有無、権利行使によって受ける所有者の利益と占有者が失う不利益との比較、さらには過去の経緯や交渉態様等を総合的に考慮して判断される。正当な占有権原を欠き、かつ所有者が一貫して明渡しを求めている場合には、原則として権利の濫用とはならない。
重要事実
Dは、厚生省の出張所に勤務しており、上司の了解を得て本件土地上に本件建物を所有・使用していた。しかし、土地所有者である被上告人は、Dに対し当初から土地使用について異議を述べ、建物の撤去を求めていた。その後、建物がE、さらには上告人へと譲渡されたが、被上告人はこれらの譲受人に対しても一貫して建物の撤去を求めていた。上告人は、占有権原を欠く状態で本件土地を使用し続けていた。
あてはめ
Dによる土地使用について、上司の了解はあったものの、土地所有者である被上告人の承諾(黙示の承諾を含む)は認められない。また、被上告人はDのみならず、その譲受人であるEや上告人に対しても、一貫して土地の使用に異議を述べ、撤去を求めている。したがって、上告人に本件土地を占有する正当な権原がないことは明らかであり、被上告人が所有権に基づき明渡しを求めることは、正当な権利の行使である。このような状況下では、明渡し請求を権利の濫用と評価すべき事情は存在しない。
結論
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…
上告人に占有権原がない以上、被上告人による土地明渡請求は正当であり、権利の濫用には当たらない。
実務上の射程
権利の濫用の主張に対する「抗弁の再抗弁」や、物権的請求権の行使を阻止する場面で活用する。本判決は、土地所有者が当初から一貫して異議を述べている事実が、権利の濫用を否定する重要な考慮要素になることを示している。
事件番号: 昭和34(オ)759 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の濫用(民法1条3項)の成否は、原審が確定した事実に即して判断されるべきであり、権利行使が正当な範囲を逸脱していると認められない限り、その請求は容認される。 第1 事案の概要:本判決文からは具体的な事案の詳細は不明であるが、上告人が被上告人の請求に対し、民法1条に違反する権利の濫用であると主張…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和32(オ)911 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人たる地位の承継に関する合意がない場合において、新所有者が賃借人に対して行う土地明渡請求が信義則に反し権利の濫用にあたるとはいえない。 第1 事案の概要:土地の所有者D(訴外)が、本件土地を被上告人(新所有者)に売り渡した。上告人(賃借人)は、Dが賃貸借上の権利義務を被上告人に承継させる意思を…
事件番号: 昭和39(オ)283 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に抗弁権がないことを奇貨として、専ら嫌がらせや報復の目的で土地を買収し、建物収去土地明渡を求める権利行使は、所有権の濫用(民法1条3項)にあたり許されない。 第1 事案の概要:被上告人は本件土地所有者との間に安定した賃借権を有し、土地の買受け交渉中であった。しかし、上告人はこれを知りながら、…