町が事実上管理していた防火用水槽に転落して死亡した幼児の両親は、右防火用水槽がその居住地域に設置された唯一の水利施設であること及び法令上消防用水利施設の管理等の責任が市町村にあることなど、原判示の事情のもとにおいては、右死亡事故による損害賠償請求のため新聞社に照会の結果、防火用水槽の管理責任を追求するよう示唆を受けたことによつて、そのころ、右防火用水槽の管理責任が町にあることを知るに至つたというべきである。
民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」の認定事例
民法724条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点となる「加害者を知つた時」とは、被害者等において、加害者に対する賠償請求を可能とする程度に、加害者の身元や管理責任の所在を客観的かつ具体的に認識し得る状態に至った時を指す。
問題の所在(論点)
不法行為による損害賠償請求権の短期消滅時効(民法724条前段)の起算点である「被害者又はその法定代理人が……加害者を知つた時」の意義、特に公の施設の管理責任者が誰であるかを認識したと判断すべき時期が問題となる。
規範
民法724条(旧法)にいう「加害者を知つた時」とは、単に加害者の氏名を知るだけでなく、被害者が加害者に対して賠償請求をすることが事実上可能な程度に加害者を特定できた時をいう。公の施設の管理瑕疵が問題となる場合、当該施設の設置・管理責任が法律上どの主体に帰属するかについて、一般人が判断するに足りる事実を認識した時がこれに該当する。
重要事実
上告人らは、本件防火用水槽で発生した事故により損害を被った。事故から2か月後、上告人らは新聞社への照会を通じて、本件防火用水槽の管理責任を追及して裁判を起こすべきとの示唆を受けた。被上告人である地方自治体は、消防組織法及び消防法に基づき、消防に必要な水利施設の設置、維持、管理の責任を負う立場にあった。
あてはめ
消防は地方自治体の重要事務であり、消防法等の規定により水利施設の管理責任は市町村にある。上告人らが事故の2か月後に新聞社から管理責任の追及を示唆された際、本件防火用水槽の管理責任が被上告人にあると「一般人が判断するに足りる事実」を認識したといえる。したがって、その時点で加害者が被上告人であることを認識したと評価される。
結論
上告人らが新聞社から示唆を受けた時期を起算点として、3年の消滅時効が完成したとする原審の判断は正当である。
実務上の射程
工作物責任(民法717条)や国家賠償法1条・2条の事案において、被告(賠償義務者)の特定が法的に複雑な場合であっても、法律の規定や専門家等からの助言により、一般人の視点で管理主体を認識し得た時点から時効が進行することを示す。実務上は、漫然と放置せず早期に法的責任主体を調査すべき義務を示唆している。
事件番号: 昭和45(オ)628 / 裁判年月日: 昭和48年11月16日 / 結論: 棄却
被疑者として逮捕されている間に警察官から不法行為を受けた被害者が、当時加害者の姓、職業、容貌を知つてはいたものの、その名や住所を知らず、引き続き身柄拘束のまま取調、起訴、有罪の裁判およびその執行を受け、釈放されたのちも判示の事情で加害者の名や住所を知ることが困難であつたような場合には、その後、被害者において加害者の氏名…