一、家督相続人の遺留分を害する財産留保は、その害する限度で、遺留分に関する規定にのつとり減殺請求権に服するにとどまり、当然に無効となるものではない。 二、いつたん確定日附ある証書によつて財産留保がされた以上、その後右証書が紛失しても、その効力に何らの影響を及ぼさない。
一、家督相続人の遺留分を害する財産留保の効力 二、確定日附ある証書の紛失と財産留保の効力
旧民法(昭和22年法律第222号による改正前のもの)988条
判旨
家督相続人の遺留分を害する財産留保は当然に無効とはならず、また、建物収去を伴わない所有権移転登記の抹消請求は、直ちに権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 遺留分を害する財産留保の効力はどうなるか。2. 確定日付ある証書が紛失した場合、対抗力に影響するか。3. 建物収去を求めない登記抹消請求は権利の濫用に当たるか。
規範
1. 家督相続人の遺留分を害する財産留保は、その限度で遺留分減殺請求の対象となるにとどまり、当然に無効ではない。 2. 建物収去を求めず、単に所有権移転登記の抹消を求める請求については、権利の行使が正当な範囲を逸脱し、社会通念上容認できない特段の事情がない限り、権利の濫用(民法1条3項)とはならない。
重要事実
旧法下の家督相続において、遺留分を侵害する態様での財産留保が確定日付ある証書によってなされた。その後、当該証書は紛失したが、本件土地について買収処分が行われ、上告人(会社)へ所有権移転登記がなされた。これに対し、被上告人が買収処分の無効を理由として、上告人に対し所有権移転登記の抹消登記手続を求めて提訴した。上告人側は、財産留保の無効、証書の紛失による効力喪失、および建物収去を伴わない登記抹消請求が権利の濫用に当たることを主張して争った。
事件番号: 昭和32(オ)1048 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判の脱漏により訴訟が依然として係属しているか否かは、事実上の記録の取り扱いに依らず、客観的な請求と裁判との対比によって判断される。したがって、先行訴訟で判断が漏れた請求と同一の訴えを提起することは、二重起訴の禁止に抵触し許されない。 第1 事案の概要:上告人は、先行する控訴事件(前訴)において、…
あてはめ
1. 財産留保が遺留分を侵害していても、遺留分減殺請求権の行使により効力が否定され得るにとどまり、当然無効とはいえない。 2. 確定日付ある証書によりなされた財産留保は、証書紛失後も効力に影響せず、第三者に対抗するために特段の対抗要件も不要である。 3. 被上告人の請求は地上建物の収去を求めるものではなく、単に所有権移転登記の抹消を求めるにとどまる。このような請求態様においては、所有権に基づく正当な権利行使の範囲内であり、権利の濫用と目することはできない。
結論
本件財産留保は有効であり、かつ、被上告人による所有権移転登記抹消請求は権利の濫用には当たらないため、請求を認容した原審の判断は正当である。
実務上の射程
権利の濫用の判断において、請求の内容が「建物収去(物理的破壊を伴う)」か「登記抹消(書面上の整理)」かという態様の差が、濫用性の肯定・否定に影響を与えることを示唆している。登記請求のみであれば、所有権者の利益保護が優先されやすい。
事件番号: 昭和42(行ツ)8 / 裁判年月日: 昭和44年9月2日 / 結論: 棄却
農地所有者が死亡し家督相続によつてその所有権が相続人に移転した場合において、公簿上の所有者である被相続人を所有者と表示して樹立した買収計画および同人を所有者と表示した買収令書による買収処分であつても、地区農地委員会および知事が、ともに真の所有者である相続人を相手方とする意思で手続を進めたものであり、相手方においても、受…
事件番号: 昭和39(行ツ)21 / 裁判年月日: 昭和39年10月13日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第五条第四号により買収除外の指定を受けた区域内にある小作地であつても、これを同法第三条第一項第二号にいう在村地主の保有小作面積に算入することは許される。
事件番号: 昭和34(オ)114 / 裁判年月日: 昭和35年12月2日 / 結論: 棄却
一 自作農創設維持の事業により創設された自作地でその旨の登記を経由したものであつても、当然に遡及買収から除外されるものではない。 二 偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。