農地所有者が死亡し家督相続によつてその所有権が相続人に移転した場合において、公簿上の所有者である被相続人を所有者と表示して樹立した買収計画および同人を所有者と表示した買収令書による買収処分であつても、地区農地委員会および知事が、ともに真の所有者である相続人を相手方とする意思で手続を進めたものであり、相手方においても、受領した買収令書の備考欄に一字間違つてはいるが相続人の氏名が記載されていた等の事情(判文参照)から、自己の所有に属する農地について買収処分がなされたことを知りまたは知りうべき状態にあつた場合には、実質上相続人を相手方とする農地買収処分があつたものと看做すことができる。
被相続人である死者を所有者と表示していた農地買収処分が相続人に対する処分と看做しうるとされた事例
自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分において、名義人が死亡し真の権利者が異なる場合であっても、処分庁に真の権利者を相手方とする意思があり、かつ当該権利者が自己に対する処分であることを知り得る状態にあれば、実質的に当該権利者を相手方とする処分として有効に成立する。
問題の所在(論点)
行政処分の名義人が既に死亡している者(亡D)であった場合において、真の所有者(上告人)に対する処分として有効に成立するか。行政処分の相手方の表示の誤りと処分の実質的帰属が問題となる。
規範
行政処分の相手方の表示に誤りがある場合であっても、①処分庁において真の権利者を相手方とする意思で手続を進めており、かつ、②当該権利者において、自己の所有物件について処分がなされたことを知り、または知り得べき状態にあったと認められるときは、実質的に当該権利者を相手方とする処分がなされたものと解するのが相当である。
重要事実
農地買収処分当時、対象農地は公簿上は亡D名義であったが、家督相続により上告人の所有となっていた。農地委員会は、Dが死亡し上告人が真の所有者であることを認識した上で、買収計画書や買収令書の摘要欄に上告人の氏名を付記するなどし、真の所有者である上告人を相手方とする意思で手続を進めた。上告人は、D名義で作成された買収令書を自ら受領していた。
事件番号: 昭和43(行ツ)53 / 裁判年月日: 昭和47年2月24日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人と真実の所有者とが異なる農地につき、登記簿上の所有名義人甲あての買収令書を、その家督相続人乙に交付して買収処分がなされた場合において、甲がかつて右農地の真の所有者であつたことがない場合であつても、甲は、真実の所有者丙の後見人であつたところ、丙のために右農地所有権を取得した際にこれを自己名義にしたもの…
あてはめ
本件では、処分庁(農地委員会・知事)はDの死亡と上告人の所有を認識しており、書類上も上告人の氏名を付記するなど、上告人を相手方とする明確な意思があったといえる(規範①充足)。また、上告人は自ら買収令書を受領しており、自己の所有地について買収処分がなされたことを知り、または知り得る状態にあったといえる(規範②充足)。したがって、本件処分は実質的に上告人を相手方とするものと認められる。
結論
本件買収処分は、実質的に上告人を相手方とするものと看做しうるため、有効である。
実務上の射程
行政処分の名義人が実体と異なる場合の救済法理として重要である。処分庁の「主観的な意思」と、相手方の「認識可能性」という二面から処分の実質的同一性を判断する枠組みは、表示の軽微な誤りや相続発生時の処分の有効性を論ずる際の指標となる。
事件番号: 昭和27(オ)1132 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分において、登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、異議申立や出訴期間内に行われた争訟によって是正されない限り、直ちに当然無効とはならない。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分を行った際、真実の所有者ではなく登記簿上の名義人を相手方として買収計画お…
事件番号: 昭和41(行ツ)4 / 裁判年月日: 昭和42年7月21日 / 結論: 棄却
地方公共団体の技術吏員は、知事から、その権限に属する事務の一部を特定して、委任をうけ、または授権された場合にかぎり、自己の名においてまたは知事を代理して、知事の権限を行使することができる。
事件番号: 昭和31(オ)845 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分は真実の所有者に対して行うべきであるが、登記簿上の所有者に対し確定した買収処分は、それが登記名義人に対してなされたという一事をもって当然無効とはならない。また、自作農創設特別措置法28条にいう「自作をやめようとするとき」とは、必ずしもその旨の意思表示を要するものではない。 第1 事案…
事件番号: 昭和27(オ)597 / 裁判年月日: 昭和33年2月27日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、登記簿上の所有者を対象とした処分は、真実の所有者と異なる場合であっても、所定の不服申立手続を経て確定した以上、当然無効とはならない。 第1 事案の概要:農地委員会は、登記簿上でD名義となっていた農地につき、Dが不在地主であるとして買収計画を樹立し、昭和…