登記簿上の所有名義人と真実の所有者とが異なる農地につき、登記簿上の所有名義人甲あての買収令書を、その家督相続人乙に交付して買収処分がなされた場合において、甲がかつて右農地の真の所有者であつたことがない場合であつても、甲は、真実の所有者丙の後見人であつたところ、丙のために右農地所有権を取得した際にこれを自己名義にしたものであり、乙は丙の母であつて、右農地取得後も甲が、その死亡後は乙が、これを管理しており、右買収令書交付当時、丙は満一八歳に達し、乙と同居していた等判示の事情のあるときは、右買収処分は無効であるとはいえない。
真実の所有者であつたことのない登記簿上の所有名義人あての買収令書によつてなされた農地買収処分が無効であるとはいえないとされた事例
自作農創設特別措置法3条
判旨
農地買収処分において、真実の所有者ではなく既に死亡している登記簿上の所有名義人あての買収令書を発行した場合であっても、一定の状況下では当該処分を無効とまではいえない。
問題の所在(論点)
真実の所有者ではない死者(登記簿上の名義人)を対象としてなされた農地買収処分の効力、および買収除外地に該当する農地を誤って買収した処分の無効原因の有無が問題となった。
規範
行政処分の無効は、原則としてその瑕疵が重大かつ明白であることを要する。農地買収処分において、登記簿上の所有名義人と真実の所有者が異なる場合であっても、自作農創設特別措置法の目的に照らし、真実の所有者が処分の内容を了知し得る状況にあるなど特段の事情があるときは、当該処分を当然無効とすることはできない。
重要事実
真実の所有者Dは、後見人FがDのために取得した土地の所有権を有していたが、登記簿上の名義人はFとされていた。Fの死亡後、母である上告人が当該土地を管理していたところ、国は既に死亡していたFを被買収者とする買収令書を発行した。当該令書はDと同居していた上告人に交付され、当時Dは18歳に達しており、令書の内容を相当程度理解し得る能力を有していた。
事件番号: 昭和42(行ツ)8 / 裁判年月日: 昭和44年9月2日 / 結論: 棄却
農地所有者が死亡し家督相続によつてその所有権が相続人に移転した場合において、公簿上の所有者である被相続人を所有者と表示して樹立した買収計画および同人を所有者と表示した買収令書による買収処分であつても、地区農地委員会および知事が、ともに真の所有者である相続人を相手方とする意思で手続を進めたものであり、相手方においても、受…
あてはめ
本件では、登記名義人Fは死亡していたが、令書はFの承継人でありDの同居人でもある上告人に交付されている。Dは当時18歳で判断能力があり、買収の内容を認識し得る状況にあった。このような事実関係の下では、処分の目的に照らして重大かつ明白な瑕疵があるとはいえない。また、買収除外地(同法5条5号)の誤認については、その誤認が重大かつ明白であることを具体的事実に基づき主張・立証しない限り、無効原因とはならない。
結論
本件買収処分は、死者名義でなされた点や買収除外地の誤認の可能性がある点を含め、当然無効とは認められない。
実務上の射程
行政処分の無効事由(重大明白説)の具体例として、特に「処分の名宛人の誤り」や「公法上の権利義務の承継」が絡む事案で活用できる。登記という公信力のある外形を信頼してなされた処分の安定性を重視する判断枠組みであり、真実の権利者の利益保護との均衡を「了知可能性」等の具体的状況から判断する手法は答案作成上参考になる。
事件番号: 昭和27(オ)597 / 裁判年月日: 昭和33年2月27日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、登記簿上の所有者を対象とした処分は、真実の所有者と異なる場合であっても、所定の不服申立手続を経て確定した以上、当然無効とはならない。 第1 事案の概要:農地委員会は、登記簿上でD名義となっていた農地につき、Dが不在地主であるとして買収計画を樹立し、昭和…
事件番号: 昭和29(オ)28 / 裁判年月日: 昭和33年6月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地買収処分において、真実の所有者でない登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、違法ではあるが当然無効とはならず、取消訴訟の対象となるにすぎない。 第1 事案の概要:所有者BがDに対し本件農地を売却し、Dが有効に所有権を取得した。しかし、登記簿上の名義人は依然としてBのままであった。国は、自…
事件番号: 昭和29(オ)767 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に相手方の誤認や手続上の瑕疵がある場合でも、処分の存在を認識し得た者が不服申立期間を徒過したときは、その瑕疵が当然無効と解すべき重大かつ明白なものでない限り、処分の効力は確定する。 第1 事案の概要:上告人の亡母Dの所有であった農地を、Dの死亡により上告人が相続したが、登記簿上の名義はDの…
事件番号: 昭和38(オ)533 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。