自作農創設特別措置法一五条に基づく宅地の買収計画が取り消された場合においても、右取消前に右宅地の売り渡しを受けた者は、特段の事情のないかぎり、その占有のはじめ無過失であつたと認めるのが相当である。
自作農創設特別措置法一五条に基づく宅地の買収計画が取り消された場合と右宅地の売り渡しを受けた者の取得時効における過失の有無
自作農創設特別措置法15条,自作農創設特別措置法29条,民法162条
判旨
行政処分による農地等の売渡しを受けた占有者は、当該処分が当然無効又は取消原因がある場合であっても、特段の事情のない限り、占有開始時に善意・無過失であったと推定される。
問題の所在(論点)
行政処分に基づき土地の譲渡を受けた者が、当該処分に取消原因等の瑕疵がある場合に、民法162条2項の短期取得時効の要件である「善意・無過失」を備えていると解されるか。
規範
行政庁による農地等の買収・売渡処分がなされた場合、それを受けた占有者は、当該行政処分が当然無効である場合や取消原因が存在する場合であっても、特段の事情のない限り、その占有の開始において善意・無過失であったと認めるのが相当である。
重要事実
自作農創設特別措置法15条に基づき、行政庁が宅地の買収計画を策定し、被上告人らに対して当該土地の売渡処分を行った。しかし、当該買収計画には取消原因となる瑕疵が存在していた。被上告人らは当該処分に基づき土地の占有を開始したが、後にその処分の効力と占有の態様(善意・無過失の有無)が争点となった。
事件番号: 昭和45(オ)55 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: 破棄差戻
不動産の交換契約の当事者甲が、右契約に基づき相手方乙の提供した不動産の占有を開始しても、甲が右契約の締結に際し詐欺を行ない、そのため右契約が乙の錯誤により無効と認められるときは、右占有は、所有の意思をもつて善意・無過失で開始されたと認めるべきではない。
あてはめ
本件における売渡処分は、自作農創設という国家的な行政目的に基づいて行われた公定力ある処分である。被上告人らにおいて、行政庁による適法な処分であると信頼して占有を開始したことは合理的である。原審が確定した諸般の事情に照らしても、占有開始時に悪意や過失を推認させる特段の事情は認められない。したがって、瑕疵ある行政処分に基づく占有であっても、善意・無過失の推定は維持される。
結論
被上告人らの占有開始時における善意・無過失は認められ、短期取得時効の成立を肯定した原判決に違法はない。
実務上の射程
行政処分を信じて占有を開始した私人の信頼を保護する趣旨であり、農地買収に限らず、公的な処分を基礎とした占有一般に射程が及ぶ。民法186条1項の善意推定に加え、無過失についても事実上の推定を認める実務上重要な判例である。
事件番号: 昭和45(オ)1090 / 裁判年月日: 昭和46年3月23日 / 結論: 棄却
占有の承継人が前主の占有をあわせて取得時効の完成を主張する場合においても、占有者の善意・無過失の要件は、前主につき、その占有の開始時において充足されることを要し、かつ、それをもつて足りる。
事件番号: 昭和42(行ツ)1 / 裁判年月日: 昭和43年9月6日 / 結論: 棄却
一、買収農地の売渡を受けて農業用施設として占有している者は、その売渡処分が当然無効であつても、特段の事情のないかぎり、その占有の始めに善意・無過失というべきである。 二、民法第一六二条の適用には、他人の所有に属することを必要としない。
事件番号: 昭和40(オ)944 / 裁判年月日: 昭和41年4月15日 / 結論: 棄却
民法第一六二条第二項にいう平穏の占有とは、占有者がその占有を取得し、または、保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていない占有を指称するものであり、不動産所有者その他占有の不法を主張する者から、異議をうけ、不動産の返還、占有者名義の所有権移転登記の抹消手続方の請求があつても、これがため、その占有が平穏でな…
事件番号: 昭和31(オ)845 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分は真実の所有者に対して行うべきであるが、登記簿上の所有者に対し確定した買収処分は、それが登記名義人に対してなされたという一事をもって当然無効とはならない。また、自作農創設特別措置法28条にいう「自作をやめようとするとき」とは、必ずしもその旨の意思表示を要するものではない。 第1 事案…