一、買収農地の売渡を受けて農業用施設として占有している者は、その売渡処分が当然無効であつても、特段の事情のないかぎり、その占有の始めに善意・無過失というべきである。 二、民法第一六二条の適用には、他人の所有に属することを必要としない。
一、買収農地の売渡を受けて農業用施設として占有している場合において売渡処分の無効のときと占有開始時の善意・無過失 二、民法第一六二条の適用には他人の所有に属することを要するか
民法162条
判旨
行政庁から農地の売渡しを受けた者は、たとえ当該売渡処分が当然無効であっても、特段の事情がない限り、占有の開始において善意かつ無過失であると認めるのが相当である。この理は、農地の耕作のみならず、農業用施設として占有する場合にも同様に適用される。
問題の所在(論点)
行政処分(売渡処分)が当然無効である場合において、その処分を信じて占有を開始した者に「無過失」(民法162条2項)を認めることができるか。また、農業用施設としての占有についても同様の法理が適用されるか。
規範
民法162条2項の短期取得時効の要件である「無過失」に関し、行政処分(売渡処分)に基づき占有を開始した者は、処分を信頼することに正当な理由がある。したがって、当該処分が当然無効であっても、特段の事情がない限り、占有の開始時に善意・無過失であったと推定(または認定)される。また、時効取得の対象は必ずしも他人の所有物に限定されない。
重要事実
排水施設組合(参加人組合)は、昭和22年2月付の県知事発行の売渡通知書に基づき、本件池沼を農業用施設として占有し始めた。しかし、後に当該売渡処分には無効事由がある可能性が浮上した。組合は、占有開始から10年が経過したことを理由に、短期取得時効による所有権取得を主張した。
事件番号: 昭和40(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 破棄差戻
農地の買収処分無効確認の訴と所有権移転登記抹消登記手続請求の訴との併合訴訟において、前者の訴につき、第一審が取得時効の完成を認めて訴を不適法として却下したのに対し、原審が時効の完成を否定し第一審判決を取り消して、請求を認容したのは、民訴法第三八八条の必要的差戻しの規定に違背するものというべきであるが、後者の訴についての…
あてはめ
組合は、所轄官庁の係官の指示に基づいて行われた本件買収・売渡手続を信頼して占有を開始している。公権力による処分を信頼して占有を開始した以上、その信頼を覆すような「特段の事情」は認められない。また、本件池沼を農業用施設として利用していることは、農地の耕作と同様に農業上の必要性に基づく占有であり、判断を異にする理由はない。したがって、占有開始時において善意かつ無過失であったと認められる。
結論
売渡処分が無効であっても、特段の事情がない限り占有開始時の無過失が認められる。組合は10年の短期取得時効により本件池沼の所有権を取得する。
実務上の射程
行政処分を信じて占有を開始した者の無過失を広く認める規範として重要。司法試験においては、取得時効の「無過失」のあてはめにおいて、登記や行政処分といった公的な外観を信頼した事実を摘示し、「特段の事情」の有無を検討する際の枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和40(行ツ)63 / 裁判年月日: 昭和42年4月13日 / 結論: 棄却
一 町村制のもとにおいて村が知事の許可なしに行なつた基本財産の処分行為であつても、町村制の廃止後は、地方自治法附則第一一条により、完全にその効力を生ずるにいつたと解すべきである。 二 自作農創設特別措置法第四〇条ノ二に基づく牧野の買収処分により国が所有権を取得した場合において、その所有権の取得およびその後の所有権の取得…
事件番号: 昭和45(オ)241 / 裁判年月日: 昭和45年5月19日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法一五条に基づく宅地の買収計画が取り消された場合においても、右取消前に右宅地の売り渡しを受けた者は、特段の事情のないかぎり、その占有のはじめ無過失であつたと認めるのが相当である。
事件番号: 昭和41(行ツ)41 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 破棄差戻
耕地整理の施行により大略一反歩ずつに整然と区画されて後、都市計画法による都市計画区域に編入された土地を対象とする農地買収処分の無効確認訴訟において、旧所有者である原告から、右土地が大都市近郊の住宅地として開発され、戦前すでに風致地区に指定された旨の主張があり、また判示のように、右土地の耕作が必ずしも正当な権原に基づくも…
事件番号: 昭和31(オ)902 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然に無効とされるためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵があることを要し、本件買収処分については小作地でない土地を小作地と誤認した点に明白な瑕疵が認められるため無効である。 第1 事案の概要:鎌倉市農地委員会は、本来は自作地(または小作地ではない土地)であった本件農地を小作地であると認定…