民法第一六二条第二項にいう平穏の占有とは、占有者がその占有を取得し、または、保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていない占有を指称するものであり、不動産所有者その他占有の不法を主張する者から、異議をうけ、不動産の返還、占有者名義の所有権移転登記の抹消手続方の請求があつても、これがため、その占有が平穏でなくなるものでない。
民法第一六二条第二項にいう平穏の占有の意義
民法162条2項
判旨
民法162条にいう「平穏」な占有とは、占有の取得または保持において暴行・強迫等の違法強暴な行為を用いないものをいい、真の所有者から返還請求や登記抹消請求等の異議を受けても、直ちに平穏を失うものではない。
問題の所在(論点)
取得時効(民法162条)の要件である「平穏」な占有とはどのような状態を指すか。特に、真の所有者から権利の主張や返還請求等の法的異議を受けたことにより、占有の平穏が害されるかどうかが問題となる。
規範
民法162条2項(および1項)にいう「平穏」な占有とは、占有者がその占有を取得し、または保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていない占有を指称する。したがって、占有者がこのような強暴の行為を用いていない以上は、不動産所有者その他その占有の不法を主張する者から異議を受け、不動産の返還や所有権移転登記の抹消手続を請求された事実があっても、その占有が「平穏」を失うことにはならない。
重要事実
被上告人の先代および被上告人は、対象不動産(本件土地)を10年間、所有の意思をもって公然に占有し、占有開始時に善意無過失であった。しかし、占有期間中に真の所有者側から、占有の不法を主張して土地の返還や、占有者名義の所有権移転登記の抹消手続を求める請求(異議)がなされていた。上告人側は、このような異議がなされた以上、もはや「平穏」な占有とはいえず、取得時効は成立しないと主張した。
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。
あてはめ
本件において、被上告人らは占有の取得および保持にあたって暴行や強迫といった違法な強暴行為を用いた事実は認められない。真の所有者から登記抹消や土地返還の請求を受けたという事実は、あくまで法律上の争いが生じていることを示すにすぎず、占有態様自体が「強暴」になったことを意味しない。したがって、客観的にみて占有の取得・保持過程に強暴性が認められない以上、所有者側からの請求があったとしても、依然として「平穏」な占有に該当すると評価される。
結論
真の所有者から返還請求等の異議を受けた事実があるだけでは、占有の平穏性は失われない。したがって、他の要件を満たす限り、被上告人の取得時効は成立する。
実務上の射程
取得時効の要件である「平穏」の定義を、物理的・態様的な強暴性の欠如と結びつけた点に意義がある。答案上では、所有者から訴訟を提起された事実がある場合でも、それが「裁判上の請求」として時効中断(更新)事由に該当するかを検討すべきであり、「平穏」要件を否定する事情としては扱わないよう注意が必要である。
事件番号: 昭和34(オ)960 / 裁判年月日: 昭和35年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の共有者は、保存行為として、共有不動産について無断でなされた不実の登記の抹消を単独で請求することができる。 第1 事案の概要:上告人らは、本件家屋が亡父Dの新築所有にかかり、その死亡により共同相続人である上告人ら両名の共有に属するものであると主張した。これに対し、被上告人B1は無断で自己名義…
事件番号: 昭和34(オ)470 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未登記不動産の所有者がこれを譲渡した後でも、登記を備えない限り譲渡人は完全な無権利者とはならない。したがって、譲渡人名義でなされた保存登記およびそれを前提とする仮差押登記は、対抗関係の法理により有効である。 第1 事案の概要:訴外Dは、自己の所有する本件建物を未登記のまま上告人Aに売り渡した。その…
事件番号: 昭和40(オ)656 / 裁判年月日: 昭和41年11月10日 / 結論: 棄却
一審判決の送達が不適法であつても、控訴審において異議なく訴訟を遂行してきた以上、適法な上告理由とならない。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…