占有の承継人が前主の占有をあわせて取得時効の完成を主張する場合においても、占有者の善意・無過失の要件は、前主につき、その占有の開始時において充足されることを要し、かつ、それをもつて足りる。
占有の承継人が前主の占有をあわせて取得時効の完成を主張する場合における占有者の善意・無過失
民法162条2項,民法187条
判旨
占有の承継人が前主の占有を併せて主張する場合、10年の短期取得時効の要件である善意・無過失の有無は、併せて主張される最初の占有(前主の占有)の開始時を基準に判断すべきである。
問題の所在(論点)
占有の承継人が前主の占有を併せて主張(民法187条1項)し、10年の短期取得時効(同法162条2項)を援用する場合、善意・無過失の判断基準時はいつか。承継人自身の占有開始時についても善意・無過失が必要か。
規範
民法162条2項の善意・無過失の要件は、占有開始時に備わっていれば足りる。占有の承継人が民法187条1項に基づき前主の占有を併せて主張する場合、同条2項の規定に照らし、瑕疵も承継されるため、善意・無過失の判断基準時は「併せて主張する占有の最初」の開始時を基準とする。
重要事実
本件土地について、訴外Dが自作農創設特別措置法により売渡しを受け、所有の意思をもって占有を開始した。その後、Dの相続人らを経て、被上告人が土地を買い受け、その占有を承継した。被上告人は、自己の占有にDおよびその相続人らの占有を併せて、10年の短期取得時効の成立を主張した。なお、最初の占有者であるDの占有開始時における善意・無過失は確定していたが、承継人である被上告人自身の善意・無過失については特段の判断がなされていない状態であった。
事件番号: 昭和45(オ)241 / 裁判年月日: 昭和45年5月19日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法一五条に基づく宅地の買収計画が取り消された場合においても、右取消前に右宅地の売り渡しを受けた者は、特段の事情のないかぎり、その占有のはじめ無過失であつたと認めるのが相当である。
あてはめ
Dが占有開始時に善意・無過失であったことが確定している以上、その占有を承継した被上告人が前主の占有を併せて主張する場合には、Dの占有開始時を基準に善意・無過失を判断すれば足りる。したがって、承継人である被上告人自身の占有開始時における善意・悪意や過失の有無を別途判断する必要はない。
結論
前主の占有開始時に善意・無過失であれば、承継人自身が後に悪意または有過失で占有を承継したとしても、前主の占有と併せて10年を経過することで短期取得時効が成立する。
実務上の射程
取得時効の主張において占有の承継を援用する際の基本判例である。答案上は、主張する占有期間の「最初の時点」に基準時を置くことを明示し、承継人の主観的態様を問わない点に注意する。ただし、承継人が「自己の占有のみ」を主張する場合は、自己の占有開始時が基準となるため、187条1項の選択との整合性に留意が必要である。
事件番号: 昭和52(オ)658 / 裁判年月日: 昭和53年3月6日 / 結論: 破棄差戻
不動産の占有主体に変更があつて承継された二個以上の占有が併せて主張された場合には、民法一六二条二項にいう占有者の善意・無過失は、その主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定すれば足りる。
事件番号: 昭和45(オ)55 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: 破棄差戻
不動産の交換契約の当事者甲が、右契約に基づき相手方乙の提供した不動産の占有を開始しても、甲が右契約の締結に際し詐欺を行ない、そのため右契約が乙の錯誤により無効と認められるときは、右占有は、所有の意思をもつて善意・無過失で開始されたと認めるべきではない。
事件番号: 昭和45(オ)357 / 裁判年月日: 昭和45年10月29日 / 結論: 棄却
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであるから、所有権譲受を内容とする交換契約に基づき開始した占有は、所有の意思をもつてする占有である。
事件番号: 昭和43(オ)865 / 裁判年月日: 昭和43年12月19日 / 結論: 棄却
民法第一六二条第二項の一〇年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であつたことの立証責任を負うものである。