民法第一六二条第二項の一〇年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であつたことの立証責任を負うものである。
民法第一六二条第二項の一〇年の取得時効と無過失の立証責任
民法162条2項
判旨
不動産の10年の短期取得時効(民法162条2項)を主張する者は、占有開始時において自己に所有権があると信じたことにつき、無過失であったことの立証責任を負う。
問題の所在(論点)
民法162条2項の短期取得時効における「無過失」の立証責任は、時効を主張する占有者側と、それを争う相手方側のいずれが負うべきか。
規範
民法162条2項に基づく短期取得時効の成立要件である「占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったとき」のうち、無過失の要件については、時効の援用者側(占有者)に立証責任がある。
重要事実
上告人は、対象不動産を自己の所有と信じて10年間占有を継続したとして、民法162条2項に基づく短期取得時効の成立を主張した。しかし、原審は事実認定に基づき、占有開始時において上告人が無過失であったとはいえないと判断した。上告人はこの判断を不服として、事実認定の違法等を理由に上告した。
事件番号: 昭和45(オ)357 / 裁判年月日: 昭和45年10月29日 / 結論: 棄却
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであるから、所有権譲受を内容とする交換契約に基づき開始した占有は、所有の意思をもつてする占有である。
あてはめ
民法162条2項は、10年の時効期間の特則として「善意かつ無過失」を要求している。民法186条1項により「善意」は推定されるが、「無過失」は同条による推定の対象に含まれていない。したがって、短期取得時効の成立を主張して権利取得を争う者は、法律上の要件として「無過失」を自ら立証しなければならない。本件において、上告人は無過失であることの立証に成功しておらず、原審の事実認定に照らしても過失がないとは認められない。
結論
10年の取得時効を主張する者は、自己が占有開始時に無過失であったことを立証する責任を負うため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
短期取得時効の要件に関する立証責任の所在を明確にしたリーディングケースである。答案上は、186条1項による推定が及ばないことを論拠として、時効主張者側に立証責任があることを明示し、具体的な事実関係(調査の有無等)から無過失の成否を検討する際の前提として用いる。
事件番号: 昭和40(オ)246 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 棄却
取得時効の成否の判断にあたり、占有開始の起算日についてその弁論が、判示のように口頭弁論調書に記載されている以上、右日時をもつて占有を開始した事は当事者間に争いがない旨判示しても、原判決には違法があるとはいえない。
事件番号: 昭和45(オ)55 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: 破棄差戻
不動産の交換契約の当事者甲が、右契約に基づき相手方乙の提供した不動産の占有を開始しても、甲が右契約の締結に際し詐欺を行ない、そのため右契約が乙の錯誤により無効と認められるときは、右占有は、所有の意思をもつて善意・無過失で開始されたと認めるべきではない。
事件番号: 昭和54(オ)19 / 裁判年月日: 昭和54年7月31日 / 結論: 破棄差戻
占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う。