将来婚姻することを約して性的交渉を続けてきた者が、婚姻意思を有し、かつその意志に基づいて婚姻の届書を作成したときは、かりに届出の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届出の受理により婚姻は有効に成立するものと解すべきである。
婚姻の届書が受理された当時本人が意識を失つていた場合と婚姻の届出の効力
民法759条
判旨
婚姻意思に基づき婚姻届を作成した者が、届出の受理時に意識を失っていた場合でも、受理前に翻意したなどの特段の事情がない限り、婚姻は有効に成立する。
問題の所在(論点)
婚姻の届出受理時に本人が意識を喪失していた場合、民法742条1号にいう「人間に婚姻をする意思がないとき」に該当し、婚姻は無効となるか。
規範
将来婚姻することを目的に性的交渉を続けてきた者が、婚姻意思を有し、かつその意思に基づいて婚姻届書を作成したときは、たとえ届出の受理当時に意識を失っていたとしても、その受理前に翻意したなどの特段の事情がない限り、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。
重要事実
亡Dと相手方は、将来の婚姻を目的として性的交渉を継続する関係にあり、Dは有効な婚姻意思に基づき、自ら婚姻届書を作成した。しかし、当該婚姻届が役所に提出され受理された当時、Dは意識を失った状態に陥っていた。Dが届出の受理前に翻意した事実は認められず、本件婚姻の届出の効力が争われた。
あてはめ
Dと相手方は将来の婚姻を前提とした実体的な関係にあり、婚姻届の作成自体はDの真実の婚姻意思に基づき行われている。受理時に意識を失っていたとしても、翻意したなどの特段の事情がない以上、作成時に存在した婚姻意思は受理時まで継続していたものと評価できる。したがって、届出受理時点においても婚姻意思を欠くものとはいえず、婚姻の有効要件を充足する。
結論
本件婚姻の届出は有効であり、婚姻は成立する。
実務上の射程
婚姻意思の存否が争われる事案において、届出時の意思能力を厳格に要求せず、届書作成時の意思の継続を認める「特段の事情」の枠組みを示したものである。死後婚姻届や危急存亡時の届出の有効性を判断する際のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和45(オ)238 / 裁判年月日: 昭和47年7月25日 / 結論: 棄却
事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。
事件番号: 昭和45(オ)266 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
当事者間において養子縁組の合意が成立しており、かつ、その当事者から他人に対し右縁組の届出の委託がなされていたときは、届出が受理された当時当事者が意識を失つていたとしても、その受理の前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届出の受理により養子縁組は有効に成立する。