事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。
婚姻の届書が受理された当時本人が意識を失つていた場合と婚姻の届出の効力
民法739条,民法742条
判旨
婚姻届が本人の意思に基づき作成され、事実上の夫婦共同生活が存続していた場合、届出受理時に本人が昏睡状態に陥っていても、翻意等の特段の事情がない限り婚姻は有効に成立する。
問題の所在(論点)
婚姻届の受理時に届出人が意識不明の昏睡状態にあった場合、民法742条1号にいう「当事者間に婚姻をする合意がないとき」に該当し、婚姻は無効となるか。
規範
民法739条及び742条1号の「婚姻をする合意」は、婚姻届の作成時に存在し、かつ届出が受理されるまで維持されている必要がある。もっとも、婚姻届が本人の意思に基づいて作成され、かつ事実上の夫婦共同生活関係が存続している場合には、届出受理の瞬間に意識を喪失していたとしても、受理前に翻意するなど婚姻意思を失う特段の事情のない限り、当該婚姻は有効であると解すべきである。
重要事実
亡Eは、昭和39年頃から肝硬変で入院していたが、昭和40年4月4日朝から完全な昏睡状態に陥り、翌5日午前10時20分に死亡した。本件婚姻届は、Eが死亡する約1時間前の同日午前9時10分頃、第三者によって市役所に持参され受理された。原審は、届出受理当時にEが意識不明であり意思能力を欠いていたことを理由に、婚姻を無効と判断した。
あてはめ
本件では、婚姻届がEの意思に基づき作成され、作成当時に婚姻意思を有していたか、および上告人との間に事実上の夫婦共同生活が存続していたかが重要である。もしこれらの事実が認められるならば、たとえ受理時にEが昏睡状態であったとしても、受理前に翻意したなどの特段の事情がない限り、婚姻意思は継続していたとみるべきである。受理の瞬間にたまたま一時的に意識不明であったことをもって一律に無効とすることは、実態に即した解決とはいえず不合理である。したがって、原審はこれらの点についてさらに審理を尽くすべきである。
結論
婚姻届受理時に昏睡状態であっても、届書が本人の意思で作成され、婚姻意思を失う特段の事情がなければ、婚姻は有効に成立し得る。本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
婚姻の成立要件(実質的要件)に関する重要判例。届出受理時における意識の有無という形式的側面よりも、届出作成時の意思と生活実態の継続性を重視する。答案では「受理時までの意思の継続」を論じる際の「特段の事情」の枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和45(オ)238 / 裁判年月日: 昭和47年7月25日 / 結論: 棄却
事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。