一、被用者の不法行為に基づく責任と民法七一五条に基づく使用者の責任とは、いわゆる不真正連帯債務の関係にあり、その一方の債務について和解等がされても、現実の弁済がされないかぎり、他方の債務については影響がないと解するのが相当である。 二、不法行為による慰籍料請求権は、被害者の死亡によつて当然に発生し、これを放棄、免除する等特別の事情の認められないかぎり、被害者の相続人が相続する。 (右二につき田中、松本裁判官の反対意見がある)
一、被用者の不法行為に基づく責任と民法七一五条に基づく使用者の責任との関係 二、不法行為による慰籍料請求権と相続
民法709条,民法710条,民法711条,民法715条
判旨
不法行為による慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思表示をせずとも、死亡によって当然に発生し、相続人が承継できる。また、不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、現実に支払を完了していなくても損害として認められる。
問題の所在(論点)
1. 死亡した被害者が生前に慰謝料請求の意思表示をしていない場合でも、その請求権は相続の対象となるか(慰謝料請求権の相続性)。 2. 不法行為に基づく損害賠償として認められる弁護士費用は、現実に支払済みであることを要するか(未払弁護士費用の損害性)。
規範
1. 慰謝料請求権の相続性:不法行為による精神的苦痛に基づく慰謝料請求権は、被害者の死亡によって当然に発生し、放棄や免除等の特段の事情がない限り、被害者の相続人がこれを相続する。 2. 弁護士費用の損害性:被害者が権利擁護のために訴訟を提起し弁護士に委任した場合、事案の難易、請求額、認容額等を考慮して相当と認められる範囲の費用は、不法行為と相当因果関係にある損害となる。当該費用は、現実に支払を完了していなくとも、支払の約束(契約)があれば足りる。
重要事実
第二種原動機付自転車の運転者Dが、対向車の前照灯に眩惑された際、減速・停止して視力回復を待つ注意義務を怠り、交通事故を発生させた。これにより死亡した被害者Eの相続人ら(被上告人)が、Dの使用者の責任(民法715条1項)を追及。主な争点は、生前に請求の意思を示していなかったEの慰謝料請求権を相続できるか、及び未払の弁護士費用が損害に含まれるかであった。
あてはめ
1. 慰謝料請求権について:被害者Eは本件事故により精神的苦痛を被り、その賠償請求権は死亡と同時に発生している。これを行使する意思表示がなされたか否かに関わらず、一身専属性は否定されるべきであり、当然に相続人らに承継される。 2. 弁護士費用について:被上告人らは本件訴訟のために弁護士と報酬等の支払を約している。本件訴訟の経緯や事案の性質に照らせば、被害者Bにつき15万円、その他各10万円の範囲で相当性が認められ、現実に支払が完了していなくとも、加害者側の負担すべき相当因果関係内の損害といえる。
結論
1. 慰謝料請求権は当然に相続の対象となる。 2. 相当な範囲内の弁護士費用は、支払の約束にとどまっていても、不法行為と相当因果関係にある損害として請求できる。
実務上の射程
慰謝料の相続性については現在でも確立した判例法理であり、答案上は当然の前提として簡潔に記せば足りる。弁護士費用については、訴訟実務上、認容額の1割程度が「相当な範囲」として認められる。答案では「損害」の項目で、弁護士委任の必要性と相当額の算定に言及する際に本法理を用いる。
事件番号: 昭和41(オ)1463 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 棄却
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 (田中裁判官および松本裁判官の反対意見がある。)