不法行為による慰籍料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 (色川裁判官の反対意見がある。)
不法行為による慰籍料請求権は相続の対象となるか
民法710条,民法711条
判旨
不法行為に基づく慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思表示をしなくても当然に発生し、放棄や免除等の特段の事情がない限り相続の対象となる。
問題の所在(論点)
被害者が即死または生前に慰謝料請求の意思表示を行わなかった場合において、不法行為に基づく慰謝料請求権が当然に相続の対象となるか(民法711条、896条)。
規範
不法行為に基づく慰謝料請求権は、被害者が死亡した場合にはその瞬間に当然に発生するものであり、行使上の専属性(民法896条ただし書)は認められない。したがって、被害者本人が生前に慰謝料を請求する旨の意思表示をしなくても、これを放棄・免除する等の特段の事情がない限り、当然に相続人へ相続される。
重要事実
訴外Dが運転する原動機付自転車と、訴外Eが運転するバイクが衝突し、Eが死亡した。被害者Eの相続人(被上告人ら)は、Dの雇用主である上告会社に対し、使用者責任(民法715条)に基づき、Eが取得したはずの慰謝料請求権を相続したとして損害賠償を請求した。これに対し、上告会社側は、被害者が生前に請求の意思表示をしていない以上、慰謝料請求権は発生しておらず、相続の対象にもならないと主張して争った。
あてはめ
慰謝料請求権は被害者の精神的苦痛を慰撫するための金銭債権であり、その性質は通常の金銭債権と異ならない。本件において、被害者Eは事故により死亡したが、死亡という損害の発生と同時に慰謝料請求権を取得したと解される。Eが請求の意思を表示した事実は認められないが、権利の発生に意思表示は不要であり、かつ権利を放棄・免除した等の特段の事情も認められない。したがって、一般原則に従い、当該債権は包括承継の対象となる。
結論
被害者が生前に請求の意思表示をしなくても、慰謝料請求権は当然に発生し、相続人はこれを適法に相続できる。
実務上の射程
被害者本人の慰謝料(710条)の相続性を肯定した大法廷判決(最判昭42.11.1)を再確認した判例であり、司法試験等の答案上では「慰謝料請求権は単純な金銭債権であり、被害者の請求の意思を待たず当然に相続される」と記述する。なお、遺族固有の慰謝料(711条)とは別個に算定・請求可能である点に注意を要する。
事件番号: 昭和41(オ)1463 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 棄却
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 (田中裁判官および松本裁判官の反対意見がある。)