事故によつて死亡した者の得べかりし利益を算定するにあたり、その控除すべき生活費を全稼働期間を通じ収入の五割を越えないとすることは、右被害者が事故当時大学に在学中であつた等原審認定の事実関係のもとではこれを不当とすることはできない。
事故により死亡した者の得べかりし利益を算定するにあたりその控除すべき生活費を全稼働期間を通じて収入の五割を越えないものとした事例
民法709条
判旨
不法行為による死亡逸失利益の算定において、控除すべき生活費は被害者自身の再生産費用に限定され、将来の収入算定の基礎となる統計は被害者の属性や居住状況に即して合理的に選択されるべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく死亡損害賠償において、(1)逸失利益から控除すべき「生活費」の範囲、および(2)地方出身の大学生の将来収入を算定する際の基礎となる統計資料の選択基準が問題となる。
規範
1.死亡逸失利益の算定において控除すべき「生活費」とは、被害者自身が将来収入を得るために必要な再生産の費用を意味し、家族の生活費は含まれない。2.将来得べかりし収入の算定基礎は、特段の事情がない限り、被害者の学歴や当時の居住・在学状況に応じた客観的な統計資料(賃金構造基本統計等)によるべきである。
重要事実
被害者Dは、大分県で小売業・農業を営む両親のもとを離れ、名古屋市の大学に在学していた大学生であったが、交通事故により死亡した。Dの遺族である被上告人らが損害賠償を請求した際、逸失利益の算定に関し、控除すべき生活費の割合(収入の5割を超えない範囲)や、算定の基礎となる収入(大分県下の平均収入ではなく、全国の新制大学卒業者の統計給与)の妥当性が争点となった。
あてはめ
(1)生活費について、Dの学歴や諸般の事情に照らせば、再生産費用としての自己の生活費を全稼働期間を通じて収入の5割以内とした原審の判断は相当である。(2)収入算定の基礎について、Dは事故当時すでに郷里を離れ名古屋の大学に在学していた。大学卒業後に特に郷里(大分県)に戻ることを認めるに足りる特段の事情がない限り、出身地の平均収入を基礎とする必要はない。したがって、新制大学卒業者の全国的な賃金統計に基づき、年齢層別の給与額を基礎として算定したことは合理的といえる。
結論
被害者自身の再生産費用のみを生活費として控除し、在学状況に即した大学卒業者の統計を用いて逸失利益を算定した原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
損害賠償額の算定における実務上の指針を示す。特に、地方出身の大学生が都市部で就学している場合、特段の事情がない限り「大卒・全国統計」を用いることを肯定した点に射程がある。生活費控除率の認定や統計資料の選択における裁判所の広範な裁量を認めるものである。
事件番号: 昭和56(オ)498 / 裁判年月日: 昭和56年10月8日 / 結論: 棄却
一 交通事故により死亡した女児の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を算定するにあたり、賃金センサスによるパートタイム労働者を除く女子全労働者・産業計・学歴計の表による各年齢階級の平均給与額を基準として収入額を算定しても不合理なものとはいえない。 二 交通事故により死亡した女児の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を算…
事件番号: 昭和40(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年10月3日 / 結論: その他
一、(省略) 二、被害者の遺族が支出した葬式費用は、社会通念上特に不相当なものでないかぎり、加害者側の賠償すべき損害となる。 三、被害者の遺族が受領した香典は、損害額の算定にあたり控除すべきものではない。