不法行為によつて死亡した者の得べかりし利益の喪失による損害として将来の収入の額を認定するにあたり、被害者が死亡の前月に受けた給与の額を基準にし、死亡後の一定期間は、同一会社に勤務する被害者と同程度の学歴、能力を有する者の毎年の現実の昇給率と同一の割合をもつて逐次昇給するものとし、それ以後も一定年齢に達するまでは右死亡後の一定期間の昇給率の平均値の割合で毎年昇給を続けるものとして給与の額を算出する等、判示のような方法によつて昇給の見込をしんしゃくすることは許される。
死者の得べかりし利益の喪失による損害額の認定にあたり将来の昇給の見込をしんしゃくすることが許されるとされた事例
民法709条
判旨
不法行為による死亡逸失利益の算定において、将来の昇給等は、証拠に基づき相当の確かさをもって推定できる場合には、予測し得る範囲で控えめに見積もって算出の基礎とすることができる。裁判所はあらゆる証拠と経験則を総合し、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収益の額を算出すべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく死亡逸失利益(民法709条、710条)の算定において、死亡当時の現実の収入のみならず、将来見込まれる「昇給」や「退職後の収入」を算入することの可否とその要件が問題となる。
規範
将来取得すべき収益の額を厳密に確定することは不可能であるが、損害の証明が困難であることを理由に請求を排斥すべきではない。したがって、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収益の額を算出できる場合には、その限度で損害を認めるべきである。具体的には、死亡当時に安定した収入があり、将来の昇給等が相当の確かさをもって推定できる場合には、予測し得る範囲で「控えめに見積もった額」を基礎として算出することが許される。
重要事実
被害者Dは、勤務先において基本給、加給、手当等から成る安定した給与を得ていた。原審は、Dと同程度の学歴・能力を有する者の過去4年間の現実の昇給率(平均7.775%等)や賞与の支給実績に基づき、将来の基本給、賞与、退職金、さらには定年後の再就職収入(定年時収入の半額)を推計し、損害額を算定した。
あてはめ
基本給については、同等の学歴・能力を有する者の現実の昇給率を基準とし、将来の昇給率を年平均7.775%や5%と予測することは、相当程度の蓋然性があり、控えめな算定として是認できる。また、基本給に連動する加給や賞与(過去の支給比率の平均値を使用)についても、実際の支給実態と比較して少額であり、社会通念上不相当ではない。定年後の再就職収入を定年時の半額とすることも経験則上肯定できる。これらは「客観的に相当程度の蓋然性」をもって予測される範囲内といえる。
結論
将来の昇給等を考慮した算定方法は正当である。相当の蓋然性をもって推定される将来の収益は、控えめに見積もる限り逸失利益として認められるため、本件の算定に違法はない。
実務上の射程
本判決は逸失利益の算定における「蓋然性」の基準を示した重要判例である。答案上は、被害者が若年層で将来の昇給が確実視される場合や、賃金センサス等を用いる際の正当化根拠として引用する。単なる期待ではなく、勤務実態や統計に基づいた「相当の確かさ」が必要であることに留意する。
事件番号: 昭和38(オ)987 / 裁判年月日: 昭和41年4月7日 / 結論: 棄却
不法行為により死亡した者の得べかりし普通恩給の受給利益喪失の損害賠償債権を相続した者が、当該被害者の死亡により、扶助料の受給権を取得した場合には、当該相続人が請求することができる損害賠償額は、扶助料額の限度において減縮すべきものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和37(オ)611 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: その他
一、企業主が生命または身体を侵害されたため企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、特段の事情のないかぎり、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきである。 二、附帯上告が上告理由と同一の理由に基づく場合において上告審で口頭弁論が開か…