一 交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。 二 ライプニツツ式計算法は、交通事故の被害者の将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法として不合理なものとはいえない。
一 死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定と将来得べかりし収入額から養育費を控除することの可否 二 将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法とライプニツツ式計算法
自動車損害賠償保障法3条,民法709条
判旨
交通事故で死亡した幼児の逸失利益を算定する際、将来の得べかりし収入額から将来支出を要しなくなった養育費を控除することはできない。養育費と将来の収入との間には、損益相殺の法理を適用または類推適用すべき損失と利得の同質性がないためである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、710条、711条等)において、死亡した幼児の逸失利益を算定する際、将来得べかりし収入額から将来支出を免れた養育費を控除できるか。損益相殺の成否が問題となる。
規範
交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額を算定するにあたり、その将来得べかりし収入額から養育費を控除することはできない。これは、幼児の養育費の支出を必要としなくなったことによる利益と、幼児の将来得べかりし収入との間には、損益相殺の法理またはその類推適用により控除すべき「損失と利得との同質性」が認められないからである。
重要事実
交通事故により当時満10歳の幼児Dが死亡した。Dの両親である上告人らが被上告人らに対し損害賠償を請求したところ、原審はDの財産上の損害額(逸失利益)の算定において、将来得べかりし収入額から養育費相当額(77万5584円)を控除した。上告人らはこの養育費控除の適否を争い、上告した。
あてはめ
損益相殺が認められるためには、損害と利益の間に同質性が認められる必要がある。本件において、死亡により喪失した「将来の収入」は被害者本人の財産的利益であるが、支出を免れた「養育費」は通常は父母等の扶養義務者が負担するものであり、利益の享受主体が異なる。また、仮に主体を同一視したとしても、稼働能力の対価としての収入と、生存・成長のために要する養育費との間には、一方が他方を当然に相殺すべき関係にあるという同質性は認められない。したがって、将来の得べかりし収入額から、将来の養育費を差し引くことは、法的な損益相殺の枠組みに適合しないといえる。
結論
幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたり、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。原判決のうち養育費を控除した部分は、法令の解釈適用を誤った違法があるため破棄される。
実務上の射程
本判決は、幼児の逸失利益算定における養育費控除を否定した重要判例である。答案上は、逸失利益の計算式(収入−生活費)において、この「生活費」に「養育費」は含まれないことを明示する際に使用する。ただし、被害者が成人・幼児を問わず、就労期間中に要する本人の「生活費」については、将来の収入から当然に控除される(最判昭39.6.24参照)点との区別に注意が必要である。
事件番号: 昭和43(オ)656 / 裁判年月日: 昭和43年12月17日 / 結論: 棄却
事故によつて死亡した者の得べかりし利益を算定するにあたり、その控除すべき生活費を全稼働期間を通じ収入の五割を越えないとすることは、右被害者が事故当時大学に在学中であつた等原審認定の事実関係のもとではこれを不当とすることはできない。