昭和五三年八月の交通事故により死亡した満一歳の女児の得べかりし利益の算定に当たり、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の全年齢平均賃金額を基準として収入額を算定したとしても、不合理とはいえない。 (補足意見がある。)
満一歳の女児の逸失利益を女子労働者の全年齢平均賃金額を基準として算定しても不合理ではないとされた事例
民法709条
判旨
交通事故により死亡した1歳の女児の逸失利益を算定する際、女子労働者の全年齢平均賃金を基準とし、生活費控除率を男児より低い3割として算出することは、不合理とはいえず正当である。
問題の所在(論点)
民法709条に基づく損害賠償額の算定において、死亡した女児の逸失利益を「女子労働者の平均賃金」に基づき算出することは、法の下の平等や個人の尊厳に反し不合理なものとして違法となるか。
規範
交通事故により死亡した幼児の逸失利益を算定するに際しては、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できる限り客観性のある額を算定すべきである。現行の雇用形態・賃金体系下において、賃金センサスの男女別平均賃金額に依拠して算定し、結果として男女間で算定額に格差が生じても、直ちにその算定方法が合理的根拠を欠くとはいえない。
重要事実
本件事故当時1歳の女児Dが交通事故により死亡した。原審は、Dの将来得べかりし利益(逸失利益)を算定するにあたり、昭和57年賃金センサスの女子労働者・全年齢平均賃金額を基準とした。その際、将来の物価・賃金上昇を斟酌せずライプニッツ方式により中間利息を控除し、生活費控除率については男児(通常5割)より低い3割として算定した。これに対し、上告人は男女平等の観点等から算定方法の違法を主張した。
あてはめ
女子労働者の平均賃金額は、現在の雇用形態や賃金体系における男女間の格差という事実を反映したものといえる。また、将来の収入額以外にも、生活費控除率等の要素において男女間の調整(本件では女児につき3割という低い控除率の適用)がなされている。このように、将来の不確定な要因を含む逸失利益の算定において、諸般の事情を総合的に考慮している以上、女子平均賃金を基礎とすることには一定の合理性が認められる。
結論
本件の算定方法は不合理なものとはいえず、適法である。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
年少女子の逸失利益算定に関するリーディングケースである。答案上は、原則として女子平均賃金を用いる実務を肯定しつつ、補足意見にみられる「全産業平均賃金(男女計)」を用いる手法の合理性にも目配りし、事案に応じた柔軟な算定の可能性を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和58(オ)331 / 裁判年月日: 昭和62年1月19日 / 結論: 棄却
就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額をいわゆる賃金センサスの女子労働者の平均給与額を基準として算定する場合には、賃金センサスの平均給与額に男女間の格差があるからといつて、家事労働分を加算すべきものではない。