就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額をいわゆる賃金センサスの女子労働者の平均給与額を基準として算定する場合には、賃金センサスの平均給与額に男女間の格差があるからといつて、家事労働分を加算すべきものではない。
就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を女子労働者の平均給与額によつて算定する場合と家事労働分の加算の可否
民法709条
判旨
就労前の年少女子の逸失利益算定において、女子の平均賃金を基準とするのは合理的であり、専業の給与額を基準とする以上、家事労働分を別途加算することは二重評価となるため許されない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)において、就労前の年少女子の逸失利益を算定する際、女子平均賃金を基準とした金額に「家事労働分」を別途加算できるか。また、現実の男女間賃金格差を損害賠償額の算定において補正すべきか。
規範
死亡時に現実収入のない就労前の年少女子の逸失利益算定において、賃金センサスの女子労働者平均給与額を基準とすることは合理的である。専業として職業に就いて受けるべき給与額を基準とする場合、将来労働によって取得しうる利益は評価し尽くされており、これに家事労働分を加算することは利益の二重評価となるため相当ではない。また、男女間の賃金格差の解消を予測して現時点で損害額に反映させることも、損害賠償の算定方法として合理的とはいえない。
重要事実
本件事故当時14歳の中学2年生であった女子Dが死亡した。Dの遺族(上告人ら)は、女子労働者の平均賃金が男子より著しく低い実態を是正するため、女子平均賃金を基準とした収入額に「家事労働分」を加算して逸失利益を算定すべきであると主張した。原審は、賃金センサスの女子労働者(旧中・新高卒)の平均給与額を基準とし、家事労働分の加算を認めなかったため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
Dは死亡時に現実収入のない年少女子であり、将来の就労形態には不確定要素が多い。原審が用いた賃金センサスの女子平均賃金は、現実の労働市場の実態を反映した客観的な指標といえる。この平均賃金に基づき、専業の職業人としての逸失利益を算定した場合、Dが労働により得られたはずの利益は既に包括的に評価されている。ここに家事労働分を加算することは、同一の労働能力を二重に計上することに等しい。また、将来の賃金格差の縮小という予測困難な事態を不法行為者に負担させることは、公平な損害分担の観点から合理性を欠く。
結論
年少女子の逸失利益算定において、女子平均賃金による算定額に家事労働分を加算することは認められない。原審の判断は正当である。
実務上の射程
年少女子の逸失利益算定の基本枠組みを示す。女子平均賃金を基準とする限り、家事労働の加算は二重評価として否定される。答案上は、全労働者(男女計)平均賃金を用いる近時の実務運用との整合性に留意しつつ、二重評価の禁止という論理を引用する際に用いる。
事件番号: 昭和54(オ)214 / 裁判年月日: 昭和54年6月26日 / 結論: 棄却
交通事故により死亡した幼児の得べかりし利益の喪失による損害賠償を算定するにあたり、賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計一八歳ないし一九歳の女子労働者の平均給与額を基準として収入額を算定しても不合理とはいえない。