一、事故により死亡した女子は、妻として専ら家事に従事する期間についても、右家事労働による財産上の利益の喪失に基づく損害を受けたものというべきである。 二、事故により死亡した女子の妻として専ら家事に従事する期間における逸失利益については、その算定が困難であるときは、平均的労働不能年令に達するまで女子雇用労働者の平均的賃金に相当する収益を挙げるものとして算定するのが適当である。
一、女子の事故死と妻として家事に従事する期間における財産上の損害 二、妻として家事に従事する期間における逸失利益の算定
民法709条
判旨
専業主婦の家事労働は、金銭的に評価可能な財産上の利益を生むものであり、不法行為による死亡逸失利益の算定にあたっては、女子雇用労働者の平均賃金に基づき評価すべきである。
問題の所在(論点)
家事に専念する主婦が死亡した場合において、現実の金銭収入を伴わない家事労働を基礎として、民法709条の財産的損害(逸失利益)を認めることができるか。
規範
家事労働は、他人に依頼すれば対価を要するものであり、現実の金銭収入がなくとも財産上の利益を生じさせる。したがって、家事労働に従事する者は、特段の事情のない限り、平均的労働不能年齢に達するまで、女子雇用労働者の平均的賃金に相当する収益を挙げるものと推定して逸失利益を算定するのが相当である。
重要事実
被害者Dは交通事故により死亡した。原審は、Dが将来高校を卒業して就職し、25歳で結婚して離職し家事に専念するものと推定した。その際、原審は、結婚して家事に専念する女子には財産的損害(逸失利益)が生じないものとして、結婚後の損害額を全く算定しなかったため、上告人がこれを不服として争った。
あてはめ
家事労働は、夫婦の扶助義務の一環として無償で行われるが、労働社会において金銭的に評価可能であり、家計支出の節減等を通じて財産蓄積に寄与する。本件において、将来専業主婦となることが推定されるDについても、その家事労働は財産上の利益を生むといえる。具体的事案において評価が困難な場合であっても、現在の社会情勢等に照らせば、女子雇用労働者の平均賃金を指標として金銭的に評価することが可能であり、これを否定した原審の判断は誤りである。
結論
家事労働は財産上の利益を生むため、専業主婦の逸失利益を女子雇用労働者の平均賃金により算定すべきである。
実務上の射程
専業主婦の逸失利益算定に関するリーディングケースである。答案上は、現実収入がない被害者の「得べかりし利益」を論じる際、家事労働の経済的価値を肯定する根拠(代替費用説的考え方)として活用する。また、年少女子の逸失利益算定において、将来の結婚による離職を前提としても、主婦としての逸失利益が認められることを示す際にも有用である。
事件番号: 昭和59(オ)544 / 裁判年月日: 昭和61年11月4日 / 結論: 棄却
昭和五三年八月の交通事故により死亡した満一歳の女児の得べかりし利益の算定に当たり、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の全年齢平均賃金額を基準として収入額を算定したとしても、不合理とはいえない。 (補足意見がある。)