事故死の被害者がその生前病弱で勤労意欲に乏しく昼間から飲酒にふけることもあつて、同人の事故死の当時の収入額がその生活費にも満たなかつた等の事実関係のもとにおいて、同人がその事故死により喪失する将来得べかりし利益の存在ないし金額を確定することができないとした判断には、経験則違背の違法はない。
事故死の被害者の喪失する将来得べかりし利益を確定することができないとした判断と経験則違背の違法の有無
民法709条
判旨
不法行為による逸失利益の算定において、被害者が病弱かつ勤労意欲に欠け、生活費が収入を上回るなどの特段の事情がある場合には、将来の得べかりし利益を認定することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為によって死亡した被害者が、事故当時において生活費以下の収入しか得ておらず、かつ労働能力や意欲に欠ける事情がある場合に、民法709条に基づく逸失利益の発生を認めることができるか。
規範
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)における逸失利益は、事故がなければ将来取得し得たであろう利益をいう。その算定に際しては、被害者の年齢、職業、収入状況のほか、健康状態、勤労意欲、生活実態等の諸事情を総合的に考慮し、確実な収入の蓋然性が認められる限度で認定されるべきである。
重要事実
訴外Dは本件事故により死亡した。Dは事故当時、自身の生活費として月額少なくとも8,250円を要していたが、病弱で勤労意欲に乏しく、昼間から飲酒にふけることもあった。そのため、事故当時の収入額は生活費にも満たない状況にあり、将来において生活費を上回る収入を得る蓋然性が認められない状態であった。また、Dと内縁関係にあった上告人A3との関係は事故前に解消されていた。
あてはめ
Dは事故当時、自身の生活費(月額8,250円)を賄うに足りる収入を得ていなかった。加えて、病弱であることや勤労意欲の欠如、日中からの飲酒といった生活実態に照らせば、将来的に生活費を控除した後の剰余利益(逸失利益)を生じさせるような収入を得る蓋然性があったとはいえない。また、扶養請求権の喪失に伴う損害についても、Dに現実に扶養し得る能力があったことが前提となるが、上記のような生活状況では扶養能力の存在を認定することは困難である。したがって、逸失利益の存在を認めることはできない。
結論
Dが事故により喪失した将来の得べかりし利益の存在ないし金額を認定することはできず、逸失利益に関する賠償請求は認められない。
実務上の射程
逸失利益が否定される極めて例外的な事例(いわゆる「生活費不稼得者」)を示す射程を持つ。答案上は、原則として労働能力喪失率に基づき算定する旨を述べつつ、本件のような特段の事情がある場合には、実質的な損害が発生していないとして否定する際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和36(オ)413 / 裁判年月日: 昭和39年6月24日 / 結論: その他
事故により死亡した幼児の得べかりし利益を算定するに際しては、裁判所は、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できるかぎり客観性のある額を算定すべきであり、一概に算定不可能として得べかりし利益の喪失による損害賠償請求を否定することは許されない。
事件番号: 昭和40(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年10月3日 / 結論: その他
一、(省略) 二、被害者の遺族が支出した葬式費用は、社会通念上特に不相当なものでないかぎり、加害者側の賠償すべき損害となる。 三、被害者の遺族が受領した香典は、損害額の算定にあたり控除すべきものではない。