被害者の職業と傷害の具体的状況により、労働省労働基準局長通達に示された労働能力喪失表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できる。
労働省労働基準局長通達に示された労働能力喪失表と得べかりし利益の喪失による損害の算定
民法709条,自動車損害賠償保障法3条
判旨
交通事故による逸失利益の算定において、労働能力喪失率表は有力な資料となるが、損害賠償制度の本旨に基づき、職業や傷害の具体的状況から表以上の収入減少が生じる場合には、現実の収入減少率に照応する損害額を認めるべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく逸失利益の算定において、労働能力喪失率表に示された数値と、現実の収入減少率が乖離する場合、どちらを優先して損害額を算定すべきか。
規範
損害賠償制度は被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とする。したがって、逸失利益の算定にあたっては、労働能力喪失率表を基準としつつも、被害者の職業と傷害の具体的状況に照らし、表に基づく喪失率を上回る現実の収入減少が認められる場合には、その実態に応じた収入減少率を基礎として損害額を算定すべきである。
重要事実
交通事故により傷害を負った被上告人が、労働能力の喪失・減退を理由として、得べかりし利益(逸失利益)の喪失による損害賠償を請求した。原審は、被上告人の職業や傷害の具体的状況を考慮し、一般的な労働能力喪失率表の数値にとらわれず、労働能力の喪失率(実質的な収入減少率)を90パーセントと認定した。これに対し上告人側が、喪失率の認定に違法があるとして上告した。
あてはめ
本件において、原審は被上告人の職業および傷害の具体的状況を詳細に検討している。労働能力喪失率表はあくまで有力な資料にすぎず、損害賠償の目的である現実の損害填補の観点からは、個別具体的な事情に基づく収入減少の把握が優先されるべきである。原審が認定した90パーセントという喪失率は、被上告人の具体的な状況下における現実の収入減少率を評価したものであり、証拠関係に照らして合理的であるといえる。
結論
被上告人の労働能力喪失率を90パーセント(現実の収入減少率に相当)と認めた原判決の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
労働能力喪失率表(自賠責法施行令の別表等)はあくまで「目安」であり、具体的な職業(特殊な技能を要する職種等)や傷害部位によっては、表の等級以上の喪失率を認めることが可能であることを示す。答案では、原則として表を引用しつつ、個別事情(職種・年齢・部位)を拾って「現実の収入減少」の程度を強調する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(オ)738 / 裁判年月日: 昭和44年12月23日 / 結論: 棄却
事故死の被害者がその生前病弱で勤労意欲に乏しく昼間から飲酒にふけることもあつて、同人の事故死の当時の収入額がその生活費にも満たなかつた等の事実関係のもとにおいて、同人がその事故死により喪失する将来得べかりし利益の存在ないし金額を確定することができないとした判断には、経験則違背の違法はない。