交通事故により死亡した幼児の得べかりし利益の喪失による損害賠償を算定するにあたり、賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計一八歳ないし一九歳の女子労働者の平均給与額を基準として収入額を算定しても不合理とはいえない。
幼児の逸失利益をいわゆる初任給固定方式によつて算定することの当否
民法709条
判旨
交通事故により死亡した女子幼児の逸失利益を算定する際、全労働者の平均賃金ではなく、賃金センサスにおける女子労働者の平均給与額を基準とすることは、不合理とはいえず適法である。
問題の所在(論点)
交通事故により死亡した女子幼児の逸失利益を算定するにあたり、女子労働者の平均賃金を基準とすることが、損害賠償額の算定として合理性を欠き、違法となるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償額の算定において、将来得べかりし利益(逸失利益)の基準となる収入額は、特段の事情がない限り、統計的資料(賃金センサス等)に基づき、被害者の性別、学歴、年齢等の属性に応じた平均的な給与額を基準として算定することが許容される。
重要事実
交通事故により、幼児である亡Dが死亡した。原審は、Dの将来得べかりし利益(逸失利益)を算定するにあたり、賃金センサス(昭和50年)における「産業計・企業規模計・学歴計・18歳ないし19歳の女子労働者」の平均給与額を基礎収入として採用した。これに対し、上告人は、男子労働者の賃金等と比較して女子の平均給与額を基準とすることは不合理であるとして、損害賠償額の算定方法の適法性を争った。
あてはめ
女子幼児の逸失利益算定において、将来の就労の可能性や生涯賃金を予測する際、現実の労働市場における男女間の賃金格差を反映した統計資料を用いることは、現時点での客観的な予測として一つの合理的な基準となり得る。本件において、原審が用いた「女子労働者の平均給与額」という基準は、統計的根拠に基づくものであり、これを基礎収入として算定することは不当な差別や不合理な推計にはあたらないと解される。したがって、逸失利益の算定手法として裁量の範囲内にある。
結論
女子幼児の逸失利益算定において女子労働者の平均給与額を基準とすることは不合理ではなく、原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
本判決は、女子の逸失利益算定において、当時の男女間賃金格差を反映した統計(女子平均)を用いることを是認したものである。もっとも、近時の実務や裁判例では、男女平等の観点や女性の社会進出を背景に、若年女子については「全労働者(男女計)平均」を用いることが一般的となっており、本判決の結論をそのまま現代の事案に適用する際には、その時代背景と現在の実務動向との差異に留意する必要がある。
事件番号: 昭和58(オ)331 / 裁判年月日: 昭和62年1月19日 / 結論: 棄却
就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額をいわゆる賃金センサスの女子労働者の平均給与額を基準として算定する場合には、賃金センサスの平均給与額に男女間の格差があるからといつて、家事労働分を加算すべきものではない。