国民所得一人当り平均額についての経済企画庁調査局国民取得課長の回答書及び給料所得者一世帯当り平均月収、生活費についての総理府統計局調査部長の回答書によつては、三歳二月の幼児の将来の得べかりし利益を適確に推認することはできないと判断しても、経験則違背にあたらない。
事故により死亡した幼児の得べかりし利益の推認ができないとされた判断と経験則違背の有無
民法709条,民法715条
判旨
幼児が不法行為により死亡した場合であっても、将来得べかりし利益(逸失利益)の算定が困難であるとしてその請求を否定した原判決の証拠判断は、経験則に違背せず適法である。
問題の所在(論点)
不法行為により死亡した幼児の将来の得べかりし利益(逸失利益)について、平均所得に関する統計資料等の提出がある場合に、これを「適確に推認できない」として否定した原審の判断に経験則違背があるか。
規範
不法行為に基づく逸失利益の算定においては、被害者が生存していれば将来収入を得るであろうことが証拠に基づき適確に推認される必要がある。特に幼児の場合、将来何時、どれだけの純収入を得るかを、死亡当時に評価して具体的な数額として算定し得る程度の立証がなされない限り、損害として認めることはできない。
重要事実
本件事故により、当時3歳2か月の男子Dが死亡した。遺族である上告人らは、Dの将来の逸失利益を請求し、その立証のために経済企画庁調査局国民所得課長や総理府統計局調査部長による平均所得・生活費に関する回答書等を証拠として提出・援用した。原審は、これらの証拠のみでは、Dが将来何時ごろからどれだけの純収入を得るかを適確に推認することは困難であるとして、逸失利益の請求を認めなかった。
あてはめ
上告人らが援用した各回答書(統計資料)は、社会全体の平均的な指標を示すものではある。しかし、原審はこれらをもってしても、死亡当時3歳にすぎない幼児が将来具体的にどの程度の収入を得るかという事実を適格に推認するに足りないと判断した。このような原審の証拠評価は、裁判所の専権に属する事項であり、直ちに経験則に反する不合理なものとはいえない。
結論
将来の逸失利益の算定が困難であるとして請求を排斥した原審の判断に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は幼児の逸失利益を否定する方向で判示したが、後の判例(最大判昭39.6.24等)により、平均賃金等の統計資料に基づき幼児の逸失利益を肯定する実務が確立した。現在では本判決は否定的な先例としての意義に留まるが、損害の確実な立証を求める基本原則を確認する文脈で参照される。
事件番号: 昭和54(オ)214 / 裁判年月日: 昭和54年6月26日 / 結論: 棄却
交通事故により死亡した幼児の得べかりし利益の喪失による損害賠償を算定するにあたり、賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計一八歳ないし一九歳の女子労働者の平均給与額を基準として収入額を算定しても不合理とはいえない。